遺伝子異常突き止め薬選択

遺伝子異常突き止め薬選択

GISTは、胃や腸にできる悪性腫瘍だが、胃がんや大腸がんといった臓器の表面の細胞から発生する「がん」とはちがい、骨肉腫と同じ「肉腫」の一種だ。
進行したGISTでは「グリベック」という「分子標的薬」が使われる。
しかし、グリベックはもともと慢性骨髄性白血病の治療のために開発された薬。
全く違うがんに対して、なぜ同じ薬が効くのだろうか。

慢性骨髄性白血病は、もともと別の染色体上にある遺伝子同士が融合し、bcr-abl遺伝子という異常な遺伝子が偶然できることが原因だ。
この異常遺伝子は細胞の無限な増殖を引き起こすタンパク質を作り出し、発症につながる。
グリベックはこのタンパク質の働きを選択的に抑え込み、劇的な効果をもたらす。

GISTもc-kitなどの遺伝子の突然変異によって発生する。
グリベックは変異型のc-kit遺伝子が作る異常なタンパク質の働きも抑えるため、GISTにも効果を示すのだ。

別の例で、アバスチンという分子標的薬は、転移のルートともなる(がん細胞に栄養を与える)新しい血管形成そのものを防ぐ。
この薬は大腸がん、肺がん、卵巣がん、子宮頸がん、乳がん、脳腫瘍など、多くの種類のがんに対して健康保険が利く。
一つの分子標的薬が多くの臓器のがんに対して効果を持つことからも分かるように、発がんや増殖のカギとなる遺伝子の異常は臓器の枠を超えてさまざまながんの原因となる。

これまで、がんの治療は臓器ごとに別々に組み立てられてきた。
今後は個々のがんの原因となった遺伝子異常を突き止め、それに有効な薬物を選ぶ時代に入ると思われる。
個別化医療」の幕開けともいえる。

執筆 東京大学病院・中川恵一准教授

参考・引用一部改変
朝日新聞・朝刊 2019.7.3



<GIST>
GIST(消化管間質腫瘍)
https://ganjoho.jp/public/cancer/gist/index.html
・消化管の壁にできる悪性腫瘍の一種(肉腫)
・粘膜の下に腫瘤状の病変を形成し、粘膜から発生する胃がんや大腸がんとは異なる性質を示す。
・新たに診断される患者さんの人数が10万人あたり1人と少ない。
・発生部位は、胃や小腸が多く、大腸、食道はまれ。
・日本では、発生部位として胃の割合が約40%~60%と高く、次いで小腸で約30%~40%、大腸で約5%となっている。
・発生する要因として、細胞の増殖に関わるたんぱく質の異常がある。
主にKITまたはPDGFRΑと呼ばれるたんぱく質が関わっており、これらのたんぱく質の異常はそれぞれc-KIT遺伝子、PDGFRΑ遺伝子の突然変異によって発生する。


GISTってどんな病気でしょうか?
https://ganclass.jp/kind/gist/

GISTの治療法について教えてください
https://ganclass.jp/kind/gist/faq/07.php
IST治療の第一選択は外科手術となります。
ただし、腫瘍が大きい場合や、周囲の臓器への浸潤や転移などの理由で手術ができないあるいは腫瘍を完全に切除しきれない場合には、「分子標的薬」というお薬で治療します。
この薬は、がんの増殖にかかわる分子だけを狙って攻撃するため、正常な細胞に与えるダメージが少ないと言われています。
現在、「分子標的薬」として投与されるお薬には3種類あり、患者さんの状態に応じて推奨されるお薬の使い方が「GIST診療ガイドライン」によって定められています。

消化管間質腫瘍(GIST)
https://www.onaka-kenko.com/various-illnesses/digestive-organs/digestive-organs_05.html
・超音波内視鏡検査では、目的の病変に細い針を刺して組織や細胞を採取する超音波内視鏡下穿刺(せんし)吸引術(Endoscopic Ultrasound-Guided Fine-Needle Aspiration:EUS-FNA)が行われます。
https://www.onaka-kenko.com/endoscope-closeup/endoscope-technology/et_05.html
・穿刺生検で採取した組織や細胞の顕微鏡的形態、KITと呼ばれるたんぱく質の有無を免疫染色によって調べることで、GISTの確定診断が行われます。また、細胞分裂の状態を観察して悪性度を調べ、治療効果の予測、再発リスクなどを評価します。
・外科手術:
GISTは胃がんや大腸がんと比べ、周囲の組織に及ぶこと(浸潤傾向)が少なく、リンパ節への転移も非常にまれとされているので、初発GISTの場合、腫瘍から1cm程度を確保して部分切除されます。発生箇所が胃や腸で、腫瘍の大きさが5cm以下の場合、腹腔鏡下手術で行われることがあります。
・内科的治療(薬物治療):
初診時に転移があり切除できない場合や切除後に転移・再発し再手術できない場合には分子標的薬による治療が行われます。