尿酸値が高い人、痛風になる前に薬

痛風治療の指針が改訂

病気の疑いがある人も含めると、日本人の10人に1人が関係する痛風
日本痛風・尿酸核酸学会は約8年ぶりに痛風治療の指針を改訂した。
これまでと違い、発作の痛みがなくても尿酸値が高い患者に対し、腎障害があれば薬を勧めることを明確にした。

腎障害ある患者対象
東京都内に住むWさん(82)は、約6年前に区内の痛風専門病院を訪ねた。
左足親指の付け根に痛みがあったからだ。
心当たりはお酒だ。
晩酌で毎日3合ほど酒を飲んだ。
道場で長く柔道を教える師範でもあり、関係者との宴会も多かった。
 
診察の2、3年前から親指がときどき腫れ、痛みがあった。
診察時は、親指の付け根が真っ赤に腫れていた。
両足のひざ下はむくみ、指で皮膚を押してもなかなか戻らない状態だった。
 
診察の結果、痛風結節というしこりが左足の親指の付け根だけでなく、右中指の関節にもあることがわかった。
結節は長期間、痛風の発作が起きていたことを示す。
検査すると血液1デシリットル中に尿酸が8.5ミリグラムと、治療の目安となる7ミリグラムを上回っていた。
 
尿酸は、食事に含まれる「プリン体」が分解されてできる。
尿酸が体内にたまり、結晶化する。
この結晶を、白血球が異物とみなして攻撃すると炎症が起き、激しい痛みが生じる。
これが痛風だ。
 
診察した医師は、Wさんが重度の痛風で、慢性的な腎障害が起きていると診断し、薬での治療を始めた。
若林さんの場合、痛風発作による痛みがない段階でも、尿酸値が高く腎障害があることがわかれば、薬で尿酸値を下げる治療の対象となった可能性がある。
 
日本痛風・尿酸核酸学会は昨年末、8年ぶりに痛風治療指針を改訂。
高い尿酸値が腎臓に悪影響を及ぼす場合、早めに薬を使った治療を勧めることにした。
 
腎臓は、痛風と密接な関係がある。
尿酸値が高い状態が続くと、尿酸の結晶が腎臓にたまって炎症を起こし、「痛風腎」になることもある。
 
治療を始めてしばらくすると、Wさんの手足からむくみが消え、息切れもなくなった。
現在は、プリン体の多い干物や魚卵を控えて禁酒し、プリン体を1日400ミリグラムに制限する食事療法をする。
薬と合わせ、尿酸は結晶ができにくい6ミリグラム以下にコントロールされ、腎臓機能の数値も少し改善した。
 
担当医は「今は発作もずっとなく、良くコントロールされた状態。痛風は薬をのんだら治まるので、繰り返し発作が起きても放置する方は多い。慢性的になって結節ができて、腎機能が悪くなる方もいるので尿酸値が高い場合は、早めのコントロールが大切」と話している。
私的コメント
腎機能が悪くなって、むくみや息切れが起こるというのは、かなりの腎障害が痛風の結果起こった(痛風腎)ということになります。
尿酸値を下げることによって腎障害が簡単に改善するということは、俄かには信じられません。

*慢性腎臓病の進行を抑制
女性ホルモンに尿酸の排出を促すはたらきがあるため女性患者は少ないが、痛風患者は右肩上がりで増えている。
日本痛風・尿酸核酸学会の推定では2013年に100万人を超えた。
血液1デシリットル中の尿酸が7ミリグラムを上回る高尿酸血症の患者は、その10倍と推定される。
かつて50歳代が多かった発症年齢は低下傾向で、20歳~30歳代の患者も増えた。
 
増加の背景には、尿酸につながるプリン体が多い肉類や、尿酸値を上げるはたらきがあるアルコールが増えた食生活の変化がある。
 
学会の新指針は、尿酸値が高くても痛風発作が起きていない、高尿酸血症患者に対し、薬物療法を「条件付きで推奨」とした。
 
対象は、腎臓機能に障害がある患者だ。
「薬を使えば慢性腎臓病の進行の抑制に効果があることなどから、新しい指針では一歩踏み込むことができた」と作成委員はいう。
一方、腎臓機能に障害がない患者には、薬を勧めないとした。
 
欧米では痛風で関節の炎症がなければ、薬による治療は認められていない。
「尿酸降下薬は先行する薬だけでなく、国産新薬も出てきたが、まだ論文が少ない。今回の指針は研究結果を精査し、そこを慎重に評価している」と話す専門医もいる。

参考・引用一部改変
朝日新聞・朝刊 2019.7.17