良性発作性頭位眩暈症(BPPV)

概説
寝返りを打った時や、ベッドから起きた時、あるいは上や下を向いた時など、頭の向きを変えた時に起きるめまいを「頭位性めまい」と呼びます。
良性発作性頭位眩暈症は頭位性めまいを起こす代表的な病気で、めまいの専門外来を受診する患者さんの半数がこの病気であるといっても過言ではないほどです。
しかし診断には頭位変換眼振検査(がんしんけんさ)が必須であり、きちんと診断されない患者さんも多数いると考えられます。
 
病因としては、かつては内耳の耳石器や中枢(脳)の障害が考えられていましたが、三半規管(さんはんきかん)の感覚細胞(クプラ)に耳石のような物質が沈着している所見(クプラ結石症)が約20年前に剖検所見で得られて以来、三半規管障害説が定着しました。
しかし約10年前に、耳石のような物質は感覚細胞に沈着しているのではなく、むしろ三半規管(カナル)の中を浮遊しているとする理論(カナル結石症)が提唱され、浮遊したこの物質を三半規管から排出させる種々の理学療法の効果が実証されるとともに、現在では大半のケースがカナル結石症で発症しているという考えが主流となりつつあります。
 
この耳石のような物質は、耳石器から脱落した耳石そのものだという説があります。
耳石の脱落の原因としては、頭部外傷による衝撃や他の内耳疾患などの既往が明らかな場合もありますが、半数以上のケースでは原因不明です。
高齢者や女性のほうが罹患(りかん)しやすい疾患であることから、加齢による退行変性やホルモンの影響なども関与しているといわれています。


症状
回転性のめまい発作が突然やってきます。
めまいは夜中にトイレに立った時や明け方ベッドの中で(おそらく寝返りを打った際に)起きることがほとんどです。
多くの患者さんが「天井がぐるぐる回ってみえた」と訴えます。
1回のめまい発作は頭の動きを止めれば数十秒で治まりますが、少しでも頭の向きが変わるとまた目が回ってしまうので身動きがとれず厄介です。
めまいは激しい回転性であることが一般的で、後ろに引っ張られるような縦方向の回転が特徴的ですが、横方向の場合もあります。


診断
問診でめまいの症状が頭位性めまいであることが確認されれば、まず本疾患を疑います。
そして頭位変換眼振検査で典型的な垂直回旋混合性眼振が認められれば診断は容易です。
しかしめまい発作の最中は病院に来られないことも多く、眼振が消失した時期に受診され、問診だけを頼りに診断を下さなければならないケースもよくあります。
 
聴力は正常であることが原則ですが、難聴を伴う他の耳疾患(突発性難聴など)に続いて良性発作性頭位眩暈症が発症することもしばしばあるので、難聴や耳鳴りがあるからといって本疾患を否定することはできません。
またどの疾患によるめまいでも一般に頭位変換によって悪化する傾向があるので、めまいが本当に頭位性なのかどうか注意する必要があります。
 
本症における典型的な頭位変換眼振には5つの特徴があり、中枢の障害による悪性発作性頭位眩暈症との鑑別が重要とされているので、診断に際してはめまいの専門医による眼振所見の正確な評価と、場合によっては頭部MRIなどの検査が必要となります。
 
典型的な良性発作性頭位眩暈症は、片耳に3つある(三)半規管のうちでもとくに後半規管の障害によって起こると考えられていますが、残りの半規管(水平半規管、前半規管)の障害による良性発作性頭位眩暈症も考えられます。
水平半規管型の頭位眩暈症では眼振は水平性となり、とくに寝返りを打った際に横方向の強い回転性めまいが現れるとされています。


標準治療例
受診時にめまいや眼振が認められる場合や、たびたびめまい発作を繰り返すケースでは理学療法が施行されます。
理学療法が成功した場合、薬物療法はまったく不要です。
理学療法が効果を現さずめまいを反復する場合には手術が施行されますが、実際に施行されることは極めてまれです。

●標準治療例
典型的な後半規管障害型の良性発作性頭位眩暈症に対しては、「エプレイ(Epley)法」「パーンズ(Parnes)法」「セモン(Semont)法」などの理学療法が行われます。これらの理学療法は、障害のある後半規管内を浮遊する耳石のような物質を加速度によって半規管から排出させようとする治療法であり、初発例から長びいている例まで、1回の手技で半数以上の患者さんを完治させうる極めて有用な治療法です。
 
しかし、これらの治療法を行うためには、どちらの耳が障害を受けているのか、すなわち患側を診断することが不可欠です。
患側の診断には眼振所見の評価が必要です。受診時に眼振が消失している患者さんや頭位変換眼振検査がうまく施行できない場合は、「ブラント・ダロフ(Brandt-Daroff)法」が施行されます。
この治療法はいわば非特異的な運動療法であり、上記の患側の後半規管をターゲットとした特異的な理学療法のような劇的な効果はありません。
セモン法とブラント・ダロフ法は、患者さんが自ら習得して自宅で励行可能なので、1回の手技で治癒しなかったケースでは考慮されるべきです。水平半規管型の良性発作性頭位眩暈症に対しては、「レンパート(Lempert)法」という理学療法が施行されることがあります。
ブラント・ダロフ法も一定の効果があります。
<私のコメント;この治療法は耳鼻科専門医のすべてが行っているわけではありません。場合によってはかえってめまいがひどくなってしまう場合もあるので他科の医師が行うことはまずありません。>


予後
予後は「良性」という名のとおり極めて良好です。
めまいに関しては、無治療で放置しても数日で自然に治ることもありますが、何週間も症状が続く場合や再発を繰り返すケースもあります。
患側の診断がつけば、理学療法により半数以上の患者さんを1回の手技だけで完治させることが可能です。
1回では完治しないケースも、患者さんが自ら習得して自宅で励行可能な理学療法により罹病期間の短縮が可能で、再発時の初期治療としても効果的です。


生活上の注意/予防
横になっている時間が長いほど発症から治癒までの期間が延長し、再発の頻度も高くなります。
これは内耳の最後部に相当する三半規管が、横になると最下位を占めるため、内リンパ中の耳石のような物質が沈殿しやすく、かつ排泄されにくくなるためと考えられます。
 
したがって本症では安静をとることはむしろ逆効果であり、たとえめまいがしても理学療法など積極的な頭位変換運動を行うべきです。
もちろん夜間の睡眠時間は十分とって問題ありませんが、患側がわかっている場合はそちらの耳を下にして寝ないほうがよいとする意見もあります。
患側が不明の場合はうつ伏せに寝ることも一法と考えられます。
 
適切な予防法はありませんが、良性発作性頭位眩暈症がめまいを起こす最も代表的な疾患であることと、頭位変換眼振検査や理学療法といった専門的かつシンプルな診療が必要十分であることから、めまいを感じたらなるべく早く専門医の診察を受けることをおすすめします。

<引用サイト>
http://health.yahoo.co.jp/katei/detail/index.html?sc=ST230100&dn=2&t=key
Yahoo!ヘルスケア > 家庭の医学
(「概要」も別にあって。素晴らしく良く出来たサイトです。執筆「倉島一浩先生」と文責もしっかりしています。)