めまいの最新治療(下)

メニエール病 多量の水飲み、症状改善
メニエール病はめまいを繰り返し、聴力の低下や耳鳴りも起こる疾患で、難病にも指定されている。
薬物や手術療法が行われてきたが、最近は薬を減らすなど患者の負担が少ない治療法も取り組まれるようになってきた。(鈴木久美子

 
東京都内のピアノ教師の女性(54)がめまいに襲われたのは、6年前の7月だった。
外を歩いていて、急にぐるぐると景色が回り出した。
暑さのせいかと放っておいたら、やがて寝起き時にめまいと吐き気が続いた。
近所の医院の内科では「疲れでしょう」との診断だった。

1カ月ほどして、左の耳が聞こえにくくなった。
友人らといても左隣の声が聞こえず、向かいの人の声も「は?」と聞き返すほど。
初めて耳鼻科で検査したところ、左耳の聴力が落ちていた。
メニエール病と診断され、血流改善薬など薬を処方された。
服用を続け、めまいは起こらなくなったが、だんだん聞こえなくなり、脈打つような耳鳴りも始まった。

メニエール病は、平衡感覚をつかさどる三半規管や耳石器と、聴覚をつかさどる蝸牛を満たすリンパ液(内リンパ液)が増えすぎて水膨れを起こし、平衡感覚や聴覚に狂いが生じる疾患と考えられている。
めまいと聴力低下、耳鳴りが起こり、特に耳の障害は最初は片耳で始まるが、やがて両耳に及ぶなど進行するのが特徴だ。

一般的に、リンパ液を調整する高浸透圧利尿薬や、血流改善薬など薬物で治療している。
薬で改善しなければ過剰な内リンパ液を放出させたり、内耳の神経を切断する手術もある。
いずれもめまいは治るが、聴力低下の進行を止めるのは難しい。

そこで注目されているのが「水分摂取療法」だ。
前出の女性も12月、北里大病院(神奈川県相模原市)でこの療法を受けた。
薬は飲まず、水を1日に約1.5リットル飲む治療法だ。
半年ほどして左耳の聴力が回復した。
耳鳴りは多少残るが「上手につきあっているので、日常困ることはない」と言う。

「水を飲むことで、内耳の血流の循環が良くなり、蝸牛の機能が改善する。メニエール病を引き起こすと考えられる抗利尿ホルモンの分泌も抑えられるので、めまいも聴力も改善する」。
2000年からこの治療を始めた同病院の長沼英明医師(神経耳科)は説明する。

女性は1.5〜2リットル、男性は2〜2.5リットルの水を毎日飲む。
薬は基本的に使わず、めまいや耳鳴りなどが起きたときの対処法として用いる。
ただし、事前に心臓や腎臓などに問題がないことを確認する必要がある。
約3カ月で改善の自覚が出始め、「飲み続ければ9割は改善する」と長沼医師。

薬が効かないときには、中耳炎の治療法「鼓室内チューブ留置」もある。
鼓膜に直径4ミリのシリコン製チューブを差し込むことで、内耳と外耳の圧力が調節され、内耳の血流が良くなると考えられている。
処置は30分ほどで済む。

「めまいの約8割に効果がある」と東京医科歯科大医学部付属病院(東京都文京区)の角田篤信医師(耳鼻咽喉(いんこう)科)は言う。
ただ、メニエール病の治療としては健康保険の適用外で約2万6千円かかる。

どの治療を行うにしても、日常のストレス解消は基本だ。
メニエール病は、ストレスを感じやすい人に起こりやすい。
不安が生じたとき、結果が出ないなら取りあえず思考停止する
▽忙しくても、合間にリラックスできる時間を持つ
▽水泳や早歩きなど有酸素運動
などに心がける。

「めまいなどの発作が起こらないときは、いい生活習慣になっている証拠。それを続けることで良い状態を保てる」と長沼医師は助言する。

出典 中日新聞・朝刊 2010.3.19
版権 中日新聞社