睡眠時無呼吸症の死角

日本人の8割が危険!睡眠時無呼吸症の死角

眠っている時に息が止まる「睡眠時無呼吸症」。
と言えば、多くの人が「居眠り運転を引き起こす」など睡眠不足の原因としか思わないかもしれません。
ところが、それだけではありません。
最近の研究では、睡眠時無呼吸症が、糖尿病や高血圧、脳卒中や心臓病などの重い病気まで引き起こすことが明らかになってきました。
しかも、これまで患者さんの典型とされてきた「太った男性」とは関係なく、「女性」でも「やせた人」でも「ある理由」から簡単に睡眠時無呼吸症になってしまうことが明らかになってきたのです。
そんな睡眠時無呼吸症の危険を見抜く裏ワザ、そして快眠につながる最新治療の方法の紹介です。


自分が危険かどうか「見た目」で判断するな!「もっと見た目」で判断せよ!
「寝てる時、息止まってたよ」。
もし家族にそう言われたら、あなたならどうしますか?
たぶん「え?ほんと?」なんて言いつつも、結局は何となくそのままにしてしまうと思いませんか。
放置してしまう理由の1つが、この病気の極端なウワサ。
「太った男性が居眠り事故を起こすような怖い病気」。
ついつい自分は無関係だと思ってしまうのです。
事実、このウワサは決して間違いではありません。
ただ、これに全く当てはまらない「新」型の患者さんが日本には実にたくさんいることが明らかになりました。
しかも、ほとんどの人が気づいていません。
眠気とか疲労感とか、なかなか自分では評価するのが難しい症状だけではなく、ズバリ「見た目」で睡眠時無呼吸症の危険を見抜いてしまう裏ワザがあります。
「見た目」と言っても肥満の人がなりやすいとか、そういう話じゃありません。
実は見るべきポイントは別にあったんです。
いわば「もっと見た目」で判断する方法です。
女性もやせている方もなる場合があるのです。


女性でも危険!無呼吸症の大誤解
睡眠時無呼吸症と言えば「太った男性」と思いがちですが、「やせた女性」も危険であることが明らかになりました。
50歳の女性Aさんは3年ほど前から、日中の極度の眠気に悩まされてきた1人です。
最低でも6時間は寝ているのに眠気がとれないのです。
さらに大きな疑問は、Aさんが肥満と無縁であること。
身長160cm、体重50kg。
30年以上ほとんど体型に変化はないと言うのです。
睡眠時無呼吸症の大規模調査によると、50歳を境に女性患者の割合が急増することが明らかになりました。


女性患者急増の原因は「あるホルモン」の不思議な働き!
原因は女性ホルモン「プロゲステロン」の減少によるものと考えられています。
プロゲステロンは脳の呼吸中枢を刺激します。
すると、呼吸中枢は横隔膜を収縮させ、肺は広がり、酸素を取り込みます。
実は女性は男性よりも呼吸を安定させる働きが優れているのです。
ところが、閉経をきっかけにプロゲステロンが減少することで、睡眠時無呼吸症を招きやすくしていたのです。
海外の疫学調査によると、50歳以上の男女の患者の割合はほとんど変わらないとされています。
「睡眠時無呼吸症=男性」ではなかったのです。


なぜ脳や心臓まで? 無呼吸症の本当の恐怖
睡眠時無呼吸症と言えば、多くの人が「居眠り運転を引き起こす」など睡眠不足の原因と思うかもしれません。
ところが、最近の研究では睡眠時無呼吸症が高血圧や糖尿病まで引き起こすことが明らかになってきました。
なぜこんなことが起こってしまうのでしょうか?
実は、呼吸が止まって酸素不足になることだけが問題ではありませんでした。
むしろ、呼吸が戻って急激に酸素量が回復すること。
これを一晩中、何度も繰り返すことが危険だったのです。
酸素量が急増すると血中に「活性酸素」が発生し、血管を傷つけます。
さらに酸素量の急増を繰り返すことで眠りを妨げられると、夜に血圧を下げてくれる機能が働きません。
その結果、高血圧を引き起こすのです。
また、最近の研究では、酸素量の急増を繰り返すことがインスリンの働きを弱め、糖尿病につながることまで指摘されています。


無呼吸症の真の原因は「小さい○○」だった!
さらに驚くことに、約9000人の患者さんを対象にした日本の大規模調査では43%が非肥満の人でした。
どうして非肥満の人が睡眠時無呼吸症になってしまうのでしょうか?
実は根本の原因は「小さいあご」でした。
通常、舌の根っこに脂肪がつくなどして、気道がふさがり、空気が通らなくなってしまいます。
だから、脂肪さえなければ問題ないと思いがちです。
ところが、小さいあごの人は、もともと口の中の容積が小さく、舌が奥へと押しやられています。
すると、ほんの少し太っただけでも簡単に気道がふさがってしまうのです。
つまり、あごは舌をいれる「器」だったのです。
実は欧米の人に比べ日本人はあごが小さい人が多く、7~8割が「小さいあご」に当てはまるとされています。
<私的コメント>
あごの「大きい」「小さい」は何をもって決めるんでしょうか。
いろんな形があるからです。
たとえば「ア○○ニオ・・・」「ザ・ブ○グ○」「あ○勇」などさまざまです。
そういえばア○ガ○ルズにもアゴの小さい人が。


#無呼吸症の危険を見抜く方法とは?
では、どうやって無呼吸症の危険を見抜けばいいのでしょうか?
実は外見で判断する上で参考になるポイントがあります。

ポイント(1)「のどの奥が見えない」
(写真で解説)
この検査は、舌が口の中で大きくなっていないかを見ます。
特にあごが小さい人は少し太っただけでも、舌が口の中でいっぱいになってしまうため、口がいすいが見えなくなりがちです。
自分で確認する際は、以下のことに注意してください。
(1)頭はまっすぐ。後ろに倒れないように
(2)口を大きく開けて舌を下に出す
(3)この時、声を出さない。口がいすいの位置が変わってしまいます

ポイント(2)「あごの下の角度が浅い」
(写真で解説)
実はあごの下には骨がありません。
したがって、特にあごの小さい人の場合、太って舌の肉が増えると、垂れ下がってきていることがわかるのです。
その他、「歯並びの悪い人」にあごの小さい人が多いとされています。あごが小さいと歯が並びきれなくなるからです。
これら外見上の特徴に加えて、下記の4項目が睡眠時無呼吸症の「目安となる症状」です。

(1)高血圧
睡眠時無呼吸症の代表的な症状です。
夜間の高血圧を翌朝に引きずるケースが多いため
特に「起床直後の血圧」が高い人は疑わしいと考えられます。

(2)日中の眠気や疲労
単なる睡眠不足ではなく、睡眠時間をたっぷりとった翌日でも日中の眠気や疲労を感じる人は疑わしいと考えられます。

(3)大きないびき(普通の話し声より大きいいびき)

(4)無呼吸の指摘
家族や友人に睡眠中の無呼吸を指摘されたことがある人は疑わしいと考えられます。

これら4つのうち、2つ以上当てはまる人は、まずは、かかりつけ医にご相談の上、睡眠の専門医の指導を受けることをおすすめします。


スッキリ熟睡!無呼吸症の最新治療術
診断がつけば治療です。
睡眠の専門医の指導のもと自分の症状に合った治療を選びます。
中でも代表的なものを紹介しましょう。

(1)ダイエット
体重を落とせば、無呼吸症の改善につながります。
ただ、症状の改善を待つのではなく、下記(2)や(3)の治療を組み合わせて行ってください。

(2)マウスピース
寝ている時だけ口にはめる医療用のマウスピースです。
これをはめると患者さんのあごが前に突き出ます。
つまり、小さいあごを人工的に「大きいあご」にしてしまうのです。
その結果、ふさがっていた気道が広がります。

(3)シーパップ
機械を使った自宅でできる治療です。
睡眠中、鼻から圧力をかけふさがっていた気道を広げます。
その結果、酸素をきちんと体内に取り組むことができるのです。
実はこの治療は快適な睡眠を得られるだけではなく、高血圧や肥満の改善にもつながることが報告されています。
研究によると、不眠は食欲を増すホルモンの分泌を増加してしまうのです。
つまり、睡眠状態を改善することでそのホルモンが減少します。
その結果、ダイエットがしやくなるのです。

出典 NHK総合テレビためしてガッテン」2010.6.23(一部改変)
版権 日本放送出版協会

日本人の8割が危険!睡眠時無呼吸症の死角
http://cgi4.nhk.or.jp/gatten/archive/program.cgi?p_id=P20100623



<関連サイト>
日本睡眠学会第35回定期学術集会 (2010.7.1~2)
日本人60歳代女性、約7割に睡眠呼吸障害
勤労女性を対象とした調査結果を藤田保健衛生大学・榊原博樹氏が報告
欧米の調査によると睡眠呼吸障害(SDB)の有病率には男女差があり、2-3:1程度で男性に多いとされている。
日本では男性のSDB有病率の報告はあるが、一般人口を対象とした女性に関する報告はない。
そこで藤田保健衛生大学医学部呼吸器内科学場Jの榊原博樹氏らは、一般勤労女性を対象にSDBの有病率を検討し、7月1日のシンポジウムで発表。
SDBの有病率は60歳代女性で約7割に達する可能性があると報告した。

中略

榊原氏は最後に米国の疫学調査(N Engl J Med. 1993;328(17):1230-5)を紹介し「40、50歳代の軽症を含むSDBの有病率は、日本の方が米国より高い可能性がある」と解説しつつ、「今後対象数を増やして日本人女性のSDB関連因子などについても詳しく検討していきたい」と述べ、さらなる調査の必要性を強調して演題を終えた。
http://www.m3.com/academy/report/article/122473/index.html?Mg=c0d1d964a8dc4346e34f9640871a18cb&Eml=31ef79e7aaf65fca34f0f116a57fd65d&F=h&portalId=mailmag&mm=MD100707_CXX


The occurrence of sleep-disordered breathing among middle-aged adults.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/8464434
(医師向き。英文でかつ専門的です。)


イメージ 1

2010.6.12撮影 東京 白金台 八芳園



<きょうの一曲>
Dusty Springfield - If You Go Away
http://www.youtube.com/watch?v=wyCVxPEPx5Y&feature=related



読んでいただいて有難うございます。
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