睡眠 熟睡できないわけ

睡眠 熟睡できないわけ、見極めて

満足できるように眠れない人は、年齢とともに増える。

加齢により増える病気が一因のこともある。

眠りを妨げる病気があれば、きちんと治療することが重要だ。

その一方、高齢になれば若いころよりも短い睡眠時間で十分になる。

睡眠の質を上げるため、生活習慣を見直すことも選択肢になる。

 

■1時間に30回覚醒・無呼吸と診断

福岡市在住の女性(75)は2年ほど前から日中、我慢できない眠気に襲われるようになった。

新聞に載っていた、睡眠障害の一種「ナルコレプシー」の症状が自分とそっくりだったので、睡眠を専門にする市内の無床クリニックを受診した。

 

院長は、ナルコレプシーになるのは若い人が多いため、別の睡眠障害のを疑った。

正確に診断するため、クリニックに1泊して脳波や心電図、筋電図などのモニターをつけたまま眠る「睡眠ポリグラフ検査」を勧めた。

 

女性が今年5月に検査を受けると、睡眠中に1時間当たり30回以上、覚醒していた。

寝ている間に短く呼吸が止まる軽症の睡眠時無呼吸症候群と、足先が周期的にピクピクする周期性四肢運動障害と診断された。

 

「想像していない病気だったので驚いたが、昼間に眠くなる原因がわかりほっとした」と女性は話す。

周期性四肢運動障害が改善されれば眠りが深くなり、無呼吸になっても目が覚めにくくなるため、まず周期性四肢運動障害の薬を処方された。

薬をのみ始め、夜中に目が覚めることがなくなった。

 

睡眠障害のうち、睡眠時無呼吸症候群や周期性四肢運動障害、脚の異常感覚で寝付けレストレスレッグス(むずむず脚)症候群などになる人は年齢とともに増える。

女性のように、複数の睡眠障害を合併する人も増える。

 

このうち睡眠時無呼吸症候群は、高齢者では見逃されている可能性が高い。

重症の人が比較的少なく、自覚症状がない場合もあるためだ。

この病気は空気の通り道、上気道が狭くなるのが原因で、肥満の人やあごの小さい人がなりやすい。

高齢者は、太っていなくても筋力が衰え、舌が沈下して上気道をふさぎやすい。

 

無呼吸により利尿に関係するホルモンの働きが変わり、尿意を催しやすくなる。

排尿のため3回以上起きるのは、何らかの病気の場合が多い。

夜間だけ頻尿の人の7割近くは睡眠時無呼吸症候群が原因という調査もある。

トイレに行くため起きることで眠りが妨げられる悪循環が起きる。

 

睡眠薬、適さぬ場合も

かかりつけの医療機関で不眠を訴えるとまず、睡眠薬を処方されることが少なくない。

しかし、睡眠障害の種類によっては睡眠薬が適さないものもある。

 

睡眠薬には、筋肉を弛緩させる働きの強いものがある。

睡眠時無呼吸症候群の人が知らずにのむと、上気道がさらに狭くなりやすくなり逆効果だ。むずむず脚症候群も、睡眠薬で脚の異常感覚が悪化することがある。

 

睡眠薬を使っても効果がなければ、睡眠専門の医師がいる病院で詳しい検査を受け、睡眠障害の種類に合った治療を受けた方がいい。

 

高齢になると、睡眠障害以外に様々な持病を持つ人も少なくない。

痛みやかゆみ、頻尿といった症状を伴う病気や、治療薬が原因で不眠に陥る場合がある。

睡眠障害なのか、それ以外の病気が原因なのかをきちんと鑑別診断する必要がある。

 

リウマチや老人性掻痒症など痛みやかゆみを伴う病気は、寝付きの悪さや夜中の目覚めの原因になりうる。

前立腺肥大や糖尿病があったり、高血圧で利尿剤を服用したりしていると、頻尿になりやすく、やはり夜中に目を覚ます原因になる。

まずは痛みやかゆみ、頻尿の原因となる病気の治療をしっかりすることが大切だ。

利尿剤 などの治療薬が原因と疑われる場合は、かかりつけ医に相談したい。

 

■6時間でOK/生活習慣見直し、眠くなってから布団へ

高齢者の場合、睡眠障害がなくても不眠を訴えることがある。

背景には現実と希望のギャップがある。

60代以上の人に必要とされる睡眠時間は6時間程度だ。

しかし不眠を訴えて受診する高齢者の中には、8時間眠りたいと希望する人や、長く眠るほど健康によいと信じている人が結構いるという。

 

睡眠時間が長いほど健康にいいとは限らない。

米国の研究などで、睡眠が5時間以下でも8時間より長くても、糖尿病や高脂血症認知症などのリスクが高まるとわかってきている。

 

必要な睡眠時間は6時間なのに、8時間眠ろうと布団の中に居続けると、2時間は眠れずにもんもんとするかもしれない。

 

悪循環を断ち切り、満足できる眠りにつくには、睡眠に関する正しい知識を持ってもらう睡眠衛生指導や、具体的な実践方法を学ぶ認知行動療法が有効だ、という専門家もいる。

 

ある専門家は、慢性の不眠症で、希望する人には認知行動療法を勧めている。

全7回で、正しい睡眠の知識を学び、睡眠日誌をつけて自分の睡眠パターンを分析。

必要以上に布団の中にいないかチェックするなどして、自分に合う睡眠スケジュールを立てる。

寝入りやすいようリラックス法も習得する。

 

認知行動療法が受けられる医療機関はまだ少ないが、内容の一部はネットで情報を得られるので、参考にしたい。

 

「睡眠時間にこだわらない」「眠くなってから床につく」「就床時刻にこだわりすぎない」「昼寝は短めに、遅くとも午後3時前」といった、よい睡眠のための生活習慣の例は、厚労省のサイト「みんなのメンタルヘルス」の睡眠障害のページで紹介されている。

 

慈恵医大では、認知行動療法の内容の一部を動画「睡眠薬の正しい使い方」で公開している。

「慈恵医大 睡眠ビデオ」で検索すると、みることができる。

 

参考・引用一部改変

朝日新聞・朝刊 2019.6.5

 

<関連サイト>

睡眠に影響を及ぼす生活習慣

https://wordpress.com/post/aobazuku.wordpress.com/969