結婚はたばこを吸わない人と
国立がん研究センターの調査によると、独身の人の約半数が「結婚する場合、相手は絶対たばこを吸わない人が良い」と答えている。
「できれば吸わない人が良い」と答えた人も合わせると、およそ7割が結婚相手にはノンスモーカーを希望していることが分かった。
たばこは、がんの原因のトップだが、最大の問題は受動喫煙の存在だ。
受動喫煙はがん全体を3割も増やすことが分かっている。
たばこを吸わない女性の肺がんで一番多いのは腺がんというタイプだ。
たばこを吸わない妻の肺腺がんについては、夫が喫煙者だとリスクは約2倍にもなることが分かっている。
非喫煙女性の肺腺がんの原因の37%は夫からの受動喫煙とされているから、大問題だ。
喫煙者が結婚相手として嫌われるのは、たばこの臭いが嫌いといった生理的な理由の他、受動喫煙による健康被害が広く知られるようになったことも大きな影響があるだろう。
しかし、妻が肺がんになった後も、たばこを吸い続ける身勝手な夫も珍しくない。
喫煙は自分だけの問題ではすまないのだ。
喫煙による経済損失は国内で年間2兆円を超えるとされるが、家計にも大きなダメージを与える。
1箱440円のたばこを毎日1箱吸い続けると年間約16万円もかかる。
たばこを吸う人は吸わない人よりも10年近く寿命が短くなるが、20歳から75歳まで吸うとすれば、900万円近くの出費になる。
寿命が短縮するため、年金の受給総額も喫煙者では減る。
会社員の場合、厚生年金と国民年金を合わせた平均受給額は月15万円程度だ。
たばこと引き換えに、10年間にもらい損ねる年金は、1800万円にも上る。
喫煙者では、生命保険の掛け金が高くなるなどの経済的なデメリットもある。
自分自身や配偶者の医療費も高くなり、病気や早死によって手にすることができなくなる賃金も膨大になるだろう。
たばこは健康面だけでなく、家計にも大きなマイナスとなる。
結婚相手には、たばこを吸わない人を選びたいという気持ちは、ごく当然のものだといえる。
執筆 東京大学病院・中川恵一准教授
参考・引用一部改変 日経新聞・夕刊 2019.8.14