「一がん息災」の考え方 

「一がん息災」の考え方 

「無病息災」をだれでも望むが、人生100年時代、まったく病気と無縁の人は例外的だ。

日本人男性の3人に2人、女性の2人に1人が、がんになる時代だから「無がん息災」は少数派だ。

 

「一病息災」という言葉がある。

一つ病気があることで、体に気を配り、健康を保つことを意味する。

がんでも、一つのがんになると、次にできる別のがんは早期に発見される傾向がある。

「一がん息災」です。

 

1人の患者が、複数の臓器がんに罹患していることを「多重がん(または重複がん)」と呼ぶ。

初めのがんの診断とほぼ同じ時期に診断された多重がんの頻度は2~17%にも上る。

 

喫煙、飲酒など、がんのリスクを高める生活習慣を持つ人は、多くの臓器にがんができやすくなる。

遺伝はがんの原因の5%に過ぎないが、特定の遺伝子変異を持つ人に多くのがんができることもある。

ヒトパピローマウイルスは子宮頚がんだけでなく、扁桃腺や肛門にもがんを作る。

 

とくに、口腔や咽頭のがん患者では、食道にもがんができることが多くなっている。

学会のガイドラインでも、こうしたがんでは、食道の検査もしておくように推奨されている。

 

タレントのHさんはステージ4の口腔がんで、舌の6割を切除して再建手術も行うなど、手術は11時間にも及んだと報じられている。

 

しかし、その後の検査で見つかった食道がんはステージ1で、内視鏡で簡単に切除ができた。

まさに、「一がん息災」を地で行った例といえるだろう。

  

「がんの王様」と呼ばれ、全体の5年生存率は1割にも満たない膵臓がんは早期発見が難しいのが特徴だ。

治癒が期待できるステージ1で発見されるのは、1割程度にすぎない。

 

しかし、東大病院での調査では、肝臓がんの治療後に見つかった膵臓がんの6割がステージ1だった。

肝臓がんの再発を確認するためのコンピューター断層撮影装置(CT)検査を頻回に行うため、早期の膵臓がんが偶然見つかるためだと思われる。

*コメント

膵がんの「ステージ1」での診断は容易ではないと思われます。

「がん」の最終診断は病理学的(病理組織による)診断です。

「ステージ1」が疑われても、最終的に判断(診断)することは、体の奥深くにある膵臓に置いては難しいのです。

 

執筆

東京大学病院准教授・中川恵一先生

参考・引用一部改変

日経新聞・夕刊 2019.12.4

 

参考

膵がん ERCP(内視鏡的逆行性膵胆管造影法)

https://www.osaka-med.jrc.or.jp/cancer2/each/cancer18.html

・膵がんでは多くの場合で膵管に異常を認めるため、ERCPといって内視鏡を使って膵管に直接造影剤を入れてレントゲン撮影することで膵管の形を詳しく調べることができる。最近では膵炎などのERCPに伴う偶発症を考慮して、膵管の観察目的では代わりに侵襲の少ない MRCP を行うことが多くなっている。

しかし、ERCPは膵液に含まれる細胞を採取することができる検査であり、特に早期膵がん(上皮内がん)の病理診断には重要な検査法だ。