薬とのつきあい方:2 手軽に買える市販薬が増えてるの?
「少し頭痛がする」「おなかが痛い」。
病院に行くほどではないけれど、症状を和らげたい。
そんな時に医療機関にかからずに、薬局やドラッグストアで購入した薬を服用して様子をみる人は多い。
最近はネットでも買うことができる。
こうした薬は、一般用医薬品(市販薬)と呼ばれる。
医師の処方が必要な医療用医薬品と違うのは、自分で選んで買えることだ。
政府は成長戦略で「セルフメディケーション」を掲げ、市販薬の活用を後押しする。
セルフメディケーションとは、世界保健機関(WHO)が「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てすること」と定義する。
公的医療保険の財政を何とか改善したいというねらいもある。
2018年の市販薬の国内向け出荷額は約7522億円。
10年前より約1200億円増えている。
保険財政を支える健康保険組合連合会が昨年、花粉症薬のうち市販薬で代用できるものを公的医療保険の適用から外すべきだと提言し、注目を浴びた。試算によると、年間597億円の医療費抑制につながるという。
湿布なども保険適用から外すよう求めている。
医師の処方がないと手に入れられなかった薬を市販薬にする取り組みも進む。昨年4月現在で、86の成分を含む薬が市販薬で使えるようになった。
17年には処方薬から市販薬になった薬を年に1万2千円を超えて買うと、所得控除が受けられるようになった。
ただ、この制度はあまり知られていない。
厚生労働省によると、控除を申請したのは17年、18年ともに約2万6千人。国は年間推計260万人が適用の対象になると見込んでいた。
確定申告が面倒だったり、対象商品がわからなかったりすることが理由とみられる。
市販薬が手軽に入手できるようになって懸念されるのが市販薬の乱用だ。
せき薬や鎮痛薬、総合感冒薬などの中には、中枢神経を興奮させたり抑えたりする成分が含まれている。
本来の治療の目的以外に使ったり、用量を守らなかったりすると依存状態に陥り、肝機能や腎機能が低下するおそれもある。
国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所などが、全国約1600の入院施設がある精神科医療施設に18年9~10月に通院か入院した患者2609症例を調べた。
市販薬による薬物依存が5.9%を占め、16年の前回調査と比べて0.7ポイント増えていた。
特に10代では市販薬が約4割を占め、最多だった。
厚労省は昨年8月、報告をもとに一部の市販薬について「依存のおそれがある」として注意喚起した。
乱用の背景には、気分の落ち込みや不安感を相談できず、一時的に薬で紛らわせている実態がある。
調査した同研究所では「依存の可能性がある市販薬を買っている人がいれば、ドラッグストアなどの薬剤師が一声かけるべきだ」と話す。
各都道府県の精神保健福祉センターの相談窓口を紹介することも勧めている。
参考・引用一部改変
朝日新聞・夕刊 2020.1.26