薬効かないうつ病に新治療 脳神経を電気刺激で活性化
薬による治療では効果が十分に表れない中等度以上のうつ病に対する新しい治療に、6月から公的医療保険が適用されるようになった。
磁気を生成する装置を頭部に当て、特定の脳神経を活性化させる治療だ。
公的医療保険が適用されたのは反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)療法。
頭部に当てた装置内のコイルに電流を流して磁気を発生させ、頭皮から深さ約2センチ下にコイルと並行した渦電流を生じさせて脳を刺激する。
1秒間に10回の刺激を4秒間与えた後に26秒間休み、また刺激する。
これを繰り返し、1回の治療で約40分間計3千回刺激する。
東京都に住む30代の会社員男性は1月、通勤しようとして突然、パニック状態に陥った。
後から振り返ると、頭痛がありよく眠れず、頭にもやがかかったような状態が続いていた。
抗うつ薬をしばらくのんだ後、公的医療保険が適用されるようになった。
同病院が当時、磁気を生成する装置を頭部に当て、特定が適用される前に研究として実施していたrTMSも受け始めた。
初回はキツツキに頭をつつかれているような衝撃で、不快感が強かった。
しかし何回か受けるうちに慣れてきて、治療中に本を読んだり、眠ったりできるようになっていった。
週5回rTMS治療を受けた。
15回目ごろから頭のもやが晴れていった。
治療前は本を読んでも10分も集中できなかったのが、20分、30分と集中できるようになった。
計6週間の治療で回復し、近く職場に復帰する予定だ。
男性は「最初は脳に電流刺激を与えるなんてとんでもないと思った。だが、rTMS療法について調べるうちに理論に則した治療だとわかった。今は治療を受けてよかった」と話す。
rTMSで刺激するのは認知機能をつかさどる脳の「前頭前野」にある神経だ。
健康な人はこの部位と感情をつかさどる「辺縁系」の活動のバランスがとれているが、うつ病になると辺縁系が過剰に活動してバランスが崩れる。
前頭前野の神経細胞を繰り返し刺激するうちに、働きが活発になって辺縁系との均衡が戻ると期待できる。
うつ病の治療はこれまでは、薬物療法、認知行動療法などの精神療法が主だった。
だが、2~3割は薬や精神療法では治らないとされる。
重症患者には「電気けいれん療法」が行われてきた。
rTMSは第4の治療法と言える。
電気けいれん療法が必要なほど重くない患者が対象で、抗うつ薬や認知行動療法と併用もできる。
*指針に沿った医療機関で
日本精神神経学会のrTMSの適正使用指針によると、1回約40分の刺激を週5回4~6週間続けて効果がみられる患者は3~4割とされる。
公的医療保険の適用対象は、18歳以上の中等度以上のうつ病の患者で、1種類以上の抗うつ薬が効かない、もしくは副作用がひどくて続けられない人に限られる。
ペースメーカーなどが入っている人は治療を受けられない。
副作用として、頭皮痛(発生頻度約30%)、顔面の不快感(同約30%)、首の痛みや肩こり(同約10%)などがあるが、次第に軽減されるという。
0.1%未満とまれだが、けいれん発作が起きることもある。
てんかん発作を起こしたことのある人など発作のリスクが高い人は、すぐに対応できる総合病院で受ける必要がある。
rTMSは2008年に米国でうつ病に対して承認され、欧米で普及。
国内では研究以外では自由診療で行われてきた。
多くは入院施設のない診療所で、厚生労働省が今年6月に定めた公的医療保険が使える施設条件を満たしていない所が多いとみられる。
診療所には良心的にrTMSを実施する所がある一方、営利目的で十分な専門性がないまま実施している所もある。
精神科専門医が常駐し、指針に沿った治療をしているかの確認が必要だ。
神奈川県立精神医療センターのrTMS療法のサイトでは治療を受ける場合の注意点を挙げている。
参考・引用一部改変
朝日新聞・朝刊 2019.7.24
<関連サイト>
反復経頭蓋 磁気刺激(rTMS)療法
https://aobazuku.wordpress.com/2019/11/04/反復経頭蓋-磁気刺激(rtms)療法/