リンパ浮腫、「複合的治療」で軽減 

リンパ浮腫、「複合的治療」で軽減 

圧迫療法や肌ケア助言が支えに

がんの手術でリンパ節を取り除くと、後になって腕や脚などがむくむリンパ浮腫の症状が出ることがある。

確実な予防法や治療法はないものの、スキンケアや生活指導などを組み合わせた「複合的治療」をすると、苦痛を減らして日常生活を送れるようになってきている。

 

東京都内在住の女性(60)は2018年春、がん研究会有明病院で子宮体がんの手術を受け、子宮とその周囲のリンパ節を切除した。

 

入院中と退院後の計2回、病院内のリンパケアルームで、看護師から約1時間かけてリンパ浮腫について説明を受けた。

皮膚が乾燥しやすくなるので保温を習慣にすること、虫に刺されてもかきむしるなどして肌に傷を作らないよう注意することなどを聞いた。

「だるくなったら、枕などを下に置いて脚を高く保って横になるとよい」といった助言も受けた。ただ、当時はがん治療のことで頭がいっぱいで、「ピンとこなかった」という。

 

秋になり異変を感じた。

入浴中、右脚だけがむくんでいた。

医師の指示のもとリンパケアルームの看護師に相談すると、圧迫療法を提案された。

弾性ストッキングをはくことでリンパ液がたまりにくくなる。

女性はいくつか試着し、1万5千円と5千円のものをはき始めた。

購入には公的医療保険が適用され、手続きをすれば半年に1回などの範囲内で費用の7~9割が支

給される。

 

生活指導で言われた保湿ケアなども続け、症状も安定し、女性は19年春から、がん治療でいったん辞めた職場に復帰した。

だが、2ヵ月後に右脚の付け根が赤くなり、熱っぽくなった。

細菌感染が原因で、リンパ浮腫の人がなりやすい「蜂窩織炎」だった。

10日間ほど入院し、抗生剤などによる治療を受けた。

 

現在は仕事に復帰し、日常生活を送っている。

女性は「リンパケアルームで何でも相談できるのがありがたかった」と話す。

 

兆候つかみ適切な対処を

がんの手術に伴うリンパ節の切除で、明らかなむくみの症状が出るのは2~3割とされる。

適切な治療で、皮膚が大きくはれる象皮病も防げる。

兆候をつかみ、適切なケアをしながら上手につきあっていくことだ」と話す。

 

リンパ浮腫は普通のむくみと違い、切除したリンパ節と関連する特定の部分にむくみが生じる。術前に腕や脚の太さを測っておき、術後に定期的に比べるとよい。

急な発熱、むくみが出やすい部分が赤くなったり、発疹が出たりしたら蜂窩織炎の可能性がある。すぐに治療が必要だ。

 

発症後は、弾性ストッキング、スリーブの着用、肌の保湿に加え、重症例では手でさすりながらリンパ液をリンパ管に戻すリンパドレナージで症状を改善する。

16年度からはこうした治療に、医師や看護師らによる生活指導などを組み合わせた複合的治療が公的医療保険の適用になった。

ただ、適用されるのは研修を受けた専任の医師がいるなど基準を満たした医療機関

また、手術した病院でしか治療を受けられない場合もあり、注意が必要だ。

 

予防には肥満注意

ただ、発症を恐れて日常生活を大きく変える必要はない。

日本リンパ浮腫学会は18年版の診療ガイドラインで、予防のための弾性ストッキング、スリーブの善用やリンパドレナージは十分な科学的根拠がないとして推奨していない。

また、飛行機に乗る旅行、採血や血圧測定はリンパ浮腫の発症や悪化に「大きな関連なし」とした。

 

発症と悪化の予防には、肥満にならないことと、傷口から細菌が入ることによる感染を防ぐことが最も効果的だ。

生活の中で習慣的に取り組むとよい。

 

参考・引用一部改変

朝日新聞・朝刊 2019.11.27