禁煙、何歳からでも

禁煙、何歳でも遅すぎません

何歳になっても、禁煙を始めるのに遅すぎることはない。

4月には受動喫煙を防ぐ法律が全面施行される。

吸い続けてきた人には禁煙のチャンスだ。

「今さらたばこをやめても、もう遅い」と思う人にとって、禁煙にはどんなメリットがあるのだろうか。

 

■仕事ぶり「若返った」

京都市のSさん(81)は2019年4月、京都市立病院禁煙外来を訪ねた。

17年に胃潰瘍になって胃腸が悪くなり、せきやたんも気になってきた。

中学の同級生30人ほどで集まっても、最近は喫煙者が下谷さんを含め2人だけ。

友人2人が医療機関で禁煙に成功したことも、80歳になって禁煙外来に向かうきっかけになった。

 

ただ、多い時は1日2箱、60年吸い続けて一度もやめようと思ったことはない。

そう簡単にやめられないと思って、最初は乗り気ではなかった。

「無理してやめたくはない。自然にやめられないか」

 

禁煙治療を担当した K医師(38)は、のみ薬を勧めた。

貼り薬もあるが、すぐに禁煙が必要。

のみ薬は最初の1週間はたばこを吸ってもよく、Sさんに合うと考えた。

ニコチン依存症の治療は保険適用されている。

 

Sさんは薬の影響で、たばこをまずく感じるようになったが、やめられなかった。

標準的な禁煙プログラムは、12週で5回の外来に通う。

最初の外来から1カ月後、3回目の外来でもたばこの本数は変わっていなかった。

 

だが、K医師から「1カ月後の4回目の外来までにやめないと禁煙は難しいかも」と言われて、悔しくなった。

一念発起して4回目の外来までにたばこを断った。

 

たばこの煙に含まれる一酸化炭素が体に入ると、酸素が不足して息が切れやすい。

 

<コメント>

血液中のヘモグロビンは酸素と結びついて全身に酸素を運ぶ役割をしていますが、一酸化炭素は酸素に比べて200倍以上もヘモグロビンと結びつきやすい性質を持っています。

このため一酸化炭素があるとヘモグロビンは酸素と結びつくことができず、血液の酸素運搬能力が低下してしまい、酸素不足に陥ります。

これを一酸化炭素中毒と言います。

一酸化炭素はたばこの煙にも1%から3%ほど含まれています。

ニコチン・タールとともにたばこから発生する有害物質の代表的なものとして「たばこの三害」などと呼ばれます。

一酸化炭素とヘモグロビンが結びついた一酸化炭素ヘモグロビンの体内での半減期は3-4時間程度なので、頻繁に喫煙する人は慢性的な酸素欠乏状態となり、ひいては赤血球が増えるなどの影響もあります。

このため一酸化炭素は血管の動脈硬化を促進するともいわれています。

ニコチン・タールなどに目が向きがちですが、恐ろしいのは、この一酸化炭素かも知れません。

吸気中の一酸化炭素濃度は簡単に測定可能で、喫煙の有無の目安として用いられます。

一酸化炭素は酸素の約200 - 250倍も赤血球中のヘモグロビンと結合しやすいのです。

半世紀近く前の医学生時代、かつて有名だった下山事件を担当された法医学の教授の最終講義を聴講する機会がありました。

その時「喫煙の最大の問題点は慢性一酸化炭素中毒です」と、話されていたことを思い出しました。

 

呼気に含まれる一酸化炭素の濃度がぐんと減って、禁煙の成果を実感できた。最後は禁煙達成の表彰状を受け取った。

 

1級建築士として今も建築設計に関わっている。

仕事が一段落した後だけはつい、たばこを吸いたくなるが、菓子で気を紛らわす。

 

Sさんは「禁煙してから、仕事で目のつけどころが若返ったと言われる。体の変化はまだ感じていないが、たばこ代も浮くし、禁煙してよかった」。

たばこ1箱は約500円する。

 

17年度の国の調査によると、禁煙治療の患者で、最も多い年代は40代の26.3%だが、50代が16.5%、60代が16.6%、70歳以上が9.8%と、高齢になって禁煙を始めようとする人は目立つ。

5回の禁煙治療を完了した時点で約8割が禁煙している。

 

喫煙者の割合も減っている。

18年の国民健康・栄養調査によると、習慣的に喫煙している人の割合は、50代男性で35.2%(00年54.1%)、60代男性で30.9%(同37.0%)、70歳以上の男性で15.8%(同29.4%)となっている。

 

うまく禁煙が始められなくても、5回の外来に最後まで通い、医療者の支援を得ることが重要だ。

K医師は「高齢者の禁煙では、本人のやめたい気持ちを信じ、寄り添い続けるよう心がけている。多くの方に禁煙外来を利用してほしい」と話す。

 

■喫煙は認知症リスク

国は16年、主に過去の国内での疫学調査をもとに、「たばこ白書」をまとめ、喫煙によって、どんな病気になりやすくなるか示している。

喫煙が原因と推定するのに「根拠十分」とされた病気は多い。

口腔や食道、肺、肝臓、胃、膵臓などの各がんに加え、脳卒中歯周病慢性閉塞性肺疾患COPD)、虚血性心疾患、2型糖尿病の発症、早産などだ。

 

たばこ白書の編集に加わった地域医療振興協会ヘルスプロモーション研究センターのNセンター長(予防疫学)は「たばこは、加齢を加速させ、多くの病気や体の機能の衰えを引き起こしやすくする。たばこをやめれば、人生の質がぐっと上がる」と話す。

 

Nさんによると、禁煙の数日後には味覚が改善してごはん粒の味がわかるようになったり、嗅覚も良くなって花の香りを楽しんだりできる。

体の中から一酸化炭素が減り、階段や趣味のスポーツが楽になるのが月単位で実感できる。

禁煙後1~2年ほどでCOPDや心臓病、5年たつと肺がんのリスクがそれぞれ下がる。

 

また、九州大学疫学調査で、喫煙で認知症のリスクが2~3倍高まることが報告されている。

認知症は高齢者が要介護になる最大の原因だ。

そのうえ、認知症になると禁煙治療は難しく、たばこの火による火事も起こりうる。

そうなる前に家族が禁煙外来の受診を勧めたり、家庭内では吸わないなどのルールを決めたりして、禁煙のきっかけを作るのが良い。

 

■改正法施行、挑戦の好機

喫煙による経済損失は、1年間で医療費、火災の消防費用、清掃費用、たばこ関連の病気による労働力損失など、計4兆3千億円になったという05年のデータがある。

厚労省研究班は、たばこが原因と十分推定できる病気によって、歯科を含めた超過医療費は1兆2千億円(15年度)だったと報告した。

<コメント>

JTがどれだけ収益を上げ、そのうちどれだけの収益分が国庫に入るのか興味深いところです。

その数字が1兆2千億円以下ならタバコ代のさらなる値上げが必要ということになります。

 

受動喫煙の対策について、世界保健機関(WHO)はこれまで、日本を4段階で最低レベルと評価していた。

18年7月に改正健康増進法が成立した。

すでに学校や病院など一部の公共施設では敷地内禁煙が始まっているが、今年4月から全面施行され、受動喫煙対策が強化される。

すでにある経営規模の小さな飲食店をのぞき、屋内は原則禁煙となり、喫煙は専用室だけで許されるようになる。

東京都や大阪府など、条例を作って、法律よりも厳しく受動喫煙対策を始める自治体もある。

 

大阪国際がんセンターのがん対策センター疫学統計部のT副部長(公衆衛生学)は「将来的に禁煙の流れに向かうため、法律ができたことは良かった」と評価する。

「病院のどの診療科にもたばこを吸っている高齢の患者が多くいる。高齢になってからでも

禁煙するとメリットがある」と強く訴える。

 

参考・引用一部改変

朝日新聞・朝刊 2020.2.5