重い花粉症に新治療法

重い花粉症に新治療法 抗体と結合、アレルギー反応止める「ゾレア」

花粉症の季節がやってきた。

目のかゆみや鼻水が続き、仕事や勉強に支障が出たり、顔の肌が荒れたりする。

 

「国民病」とも呼ばれ、多くの人が悩まされる中、症状が重い人を対象にした新たな治療法が今季、登場する。

 

神奈川県の女性(64)は20年以上、重いスギ花粉症に悩まされてきた。

2月ごろから、目のかゆみと鼻水がひどくなる。

外出時は箱のティッシュが欠かせなかった。

 

処方薬も市販薬も効果は感じられず、従来はぜんそくやじんましんの治療に使われていた抗体製剤ゾレア(一般名・オマリズマブ)の治験に、2018年に参加した。

 

治験では、本物の薬と偽物の薬を使う人に分け、医師や本人たちにもわからないようにして、花粉症での効き目を見た。

女性は早い段階でピンときた。

「私は本物の方だ」。

これまで目薬などでは改善しなかったが、治験を始めると例年に比べて症状が軽くなったからだ。

「あんなに楽なシーズンはなかった」と振り返り、「再び使いたい」と話す。

 

ゾレアを開発したノバルティスファーマによると、治験には約340人が参加。

うち、この女性を含む半数の人は本物の薬で、鼻づまりなどの症状とQOL(生活の質)が改善した。

注射の痛み以外の副作用は少なかったという。

承認を受け、重いスギ花粉症の人向けにも今季から使えるようになった。

 

体内に入った花粉は異物と見なされ、これを追い出そうと「IgE抗体」というたんぱく質が作られて免疫細胞にくっつき、次回の侵入に備える。

再び花粉が体内に入ると、免疫細胞上の抗体と花粉が結合し、免疫細胞からヒスタミンなどの化学物質が出て、目や鼻が刺激される。ゾレアは、抗体が免疫細胞に結合する前に「先回り」してくっつき、アレルギー反応を止める仕組みだ。

 

ただ、誰でも使えるわけではない。

花粉症の重さはくしゃみや鼻水、鼻づまりの程度で、軽症 ▽中等症 ▽重症 ▽最重症の四つに分類される。

ゾレアが使えるのは重症と最重症で、ステロイドや抗ヒスタミン薬を使っていても効果が不十分な人に限られる。

 

使う量などは、患者ごとのIgE濃度と体重で決まり、1回75~600ミリグラムを2週または4週ごとに注射する。

ノバルティスによると、159ミリグラム(1本)を4週ごとに使う場合、1カ月の費用は約4万7千円で、3割負担だと約1万4千円が自己

負担になる。

従来の治療も続ける必要がある。

 

花粉症に詳しい、ある専門医は「QOLの改善を高いと感じるか、安いと感じるかは患者さんの症状や状況次第」とし、「スギ花

粉症の全員が対象になるわけではなく、使えるのはごく一部だろう」と見る。

 

免疫療法・手術広がる選択肢

花粉症の治療の選択肢は、ほかにもある。

 

ゾレアはアレルギー反応を抑える薬で、抗ヒスタミン薬などはくしゃみや鼻水を抑える薬だ。

どちらも症状は改善するが、根治を目指すものではない。

 

一方、体質を変えようとするのが免疫療法だ。

アレルギーの原因物質を含んだ薬を体内に少しずつ取り入れ、原因

物質への反応を弱めていく。

花粉が飛ぶシーズンの前から始めなければならず、効果が出るには2、3年以上かかるとされるが、根本的な改善が期待できる。

 

かつては注射だけだったが、2014年に舌の裏に薬を垂らす「舌下免疫療法」が保険適用となった。

自宅で手軽にできるため、広がりつつある。

 

手術もある。

鼻づまりが特に重い人は、鼻の粘膜を切除し、鼻の通りをよくする狙いだ。

日帰りでできる医療機関も増えている。

 

花粉症にとって最も重要なのはQOL

患者さんがいつも通りに過ごせるよう、治療の選択肢を提供することが大切だ。 

 

参考・引用一部改変

朝日新聞・朝刊 2020.2.12

 

<関連サイト>

ゾレアの仕組みと使用上の注意点

https://wordpress.com/post/aobazuku.wordpress.com/860