新型コロナウイルス感染症の治療薬候補のまとめ

 新型コロナウイルス感染症の治療薬候補のまとめ

新型コロナの治療薬として国内でも早期から使用されていたカレトラ(抗HIV薬)の有効性に関する大規模な臨床研究の結果が発表された。

その結果と、現時点でのその他の候補薬については・・・。

 

カレトラ

これまで日本国内で新型コロナウイルス感染症の症例に最も多く使用されているのはカレトラだった。

カレトラはロピナビルという薬剤とリトナビルという薬剤の合剤であり、HIV感染症の薬剤だ。

 

以前からこのカレトラは同じコロナウイルスによる感染症であるSARS重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)に有用かもしれない、と言われていた。

そのため、今回の新型コロナウイルス感染症の流行が始まった当初からカレトラは臨床試験として中国で患者さんに投与されており、日本国内でも国立国際医療研究センターなどの医療機関で複数の患者さんに使用されている。

先日、カレトラの治療効果についての臨床研究の結果がNew England Journal of Medicineに掲載された。

 

199人の新型コロナ患者を無作為にカレトラを14日間内服する群(99人)と標準治療(カレトラを内服しない)群(100人)とを比較したところ、臨床的改善が得られるまでの時間に差はなかった、との結果だった。

つまりカレトラを飲むことによっても新型コロナ感染症の経過に差はなかったという結果だ。

 

3%くらいの致死率の低い感染症なので、生存率を比較するには研究に参加する患者数がたくさんいなければならない。

その代わりに臨床的改善という指標を用いているが、これも当初予定されていた160人では症例数が足りないということで最終的に199人を登録して有意な差はないという結論になっている。

 

患者数を増やし、研究デザインを変えることでカレトラの有効性を示せる可能性はまだ残っているかもしれないが、この論文が出てしまった後にそこまでして臨床研究を行う意義は高くはない。

必然的に、新型コロナ患者にカレトラが使用される機会は減っていくことが予想される。

 

レムデシビル

元々はエボラ出血熱の治療薬の候補としてこれまで他の臨床試験で使用されていた薬剤だ。

現在もコンゴ民主共和国で流行が続いているエボラ出血熱の症例に対して、ランダム化比較試験という形でレムデシビルが投与されていた。

しかし、結果としてはレムデシビルはMAb114、REGN-EB3という2つの薬剤に治療効果が劣ることが分かり、現在はエボラ出血熱への投与は中止されている。

 

そんな中、このレムデシビルが新型コロナウイルス感染症に有効である可能性が出てきている。

武漢ウイルス研究所がレムデシビルの新型コロナウイルスに対する効果に関する報告を発表した。

培養細胞に新型コロナウイルスを感染させ、48時間後のウイルス増殖の抑制効果を見たところ、レムデシビルで高い阻害効果が観察されたというものだ。

 

また、アメリカで最初に新型コロナウイルス感染症と診断された症例にもこのレムデシビルは投与されている。

この患者はその後回復しているが、それがレムデシビルの効果によるものかは分からない。

官邸のホームページに掲載された「新型コロナウイルス感染症対策本部(第 12 回)」の資料によると、国内では国立国際医療研究センターを中心に3月からこのレムデシビルの国際共同医師主導治験が開始されるとのことだ。

すでに中国でも臨床研究が行われており、4月には結果が出る見込みとなっている。

 

アビガン

アビガン錠(一般名ファビピラビル)は日本の製薬会社である富士フイルム富山化学が開発した薬剤だ。

日本国内ではインフルエンザ薬として承認されているが、催奇性があることから新型インフルエンザなどが発生した場合などに備えて備蓄されており、普通のインフルエンザの患者さんに使用されることはない。

RNAポリメラーゼという酵素を阻害することから、インフルエンザ以外のRNAウイルスにも幅広く効果が期待できる薬剤と言われている。

 

本薬剤もレムデシビルと同様、エボラ出血熱に使用されたことがある。2014-2015年の西アフリカでのエボラ出血熱アウトブレイクの際にアビガンの治療効果が検討されているが、明らかに有効とまでは言えない結果となっている。

また日本でも年間約80例の感染者が報告されており、27%という高い致死率のSFTS重症熱性血小板減少症候群)に対しても有効である可能性が示されており、日本国内で臨床試験が行われた。

 

新型コロナウイルスに対する効果は、実験室レベルでは一定の阻害作用は確認されている。

ただし、国内で実際の患者さんに使用されるのはこれからであり、新型コロナウイルス感染症に対する有効性については現時点では不明だ。

 

日本国内だけでなく、中国を含む諸外国でも使用されている。

まだ論文にはなっていない段階だが、カレトラ群と比較してファビピラビル投与群でウイルス消失時間が短縮された、という80人規模の臨床研究がまもなく掲載される予定だ。

 

クロロキン

これらの薬剤以外に、中国ではクロロキンという抗マラリア薬が使用されている。

クロロキンはかつてマラリアの治療薬として世界中で使用されてきた抗マラリア薬だが、近年はクロロキン耐性マラリアの増加によりマラリアの治療には使われなくなってきている。

日本でも現在は未承認薬の扱いとなっている。

 

クロロキンと類似した構造を持つヒドロキシクロロキン(プラケニル)は国内では全身性エリテマトーデス(SLE)などに使用されているが、これはヒドロキシクロロキンが抗炎症作用、免疫調節作用を持つためだ。

クロロキンにも同様の作用があり、これが新型コロナウイルス感染症に有効な可能性がある、というわけだ。

これも実験室レベルでの新型コロナウイルスの抑制効果が示されている。

 

日本国内でもヒドロキシクロロキンが使用された事例があり日本感染症学会のHPに「ヒドロキシクロロキンを使用し症状が改善したCOVID-19の2例」として掲載されている。

 

2例はいずれも回復したとのことだが、まだ投与された症例数が十分ではなく、中国での成績も発表されていない現時点ではヒトでの治療効果は不明だ。

 

シクレソニド(商品名;オルベスコ、帝人ファーマ)

日本ではシクレソニド(商品名:オルベスコ)という吸入ステロイド薬を使用し改善した3例が報告されている。

シクレソニドは気管支喘息などに用いられる吸入ステロイド剤だが、この報告によると国立感染症研究所コロナウイルス研究室により、シクレソニドがSARS-CoV-2に対し強い抗ウイルス活性を有することが示されたとのことだ。

3例報告であり、シクレソニドの新型コロナウイルス感染症に対する効果はまだ明らかではないが、全身投与ではなく局所に作用する吸入ステロイド剤であることから副作用が少なく、もし有効であるとすれば有望な治療薬となり得る。

 

回復者血漿

回復者血漿というのは感染症から回復した人の血液の一部を、今その感染症で苦しんでいる患者さんに投与するものであり、輸血の一種になる。

新型コロナウイルス感染症に感染した人の97%は回復するが、この回復した人たちは新型コロナウイルスに対する抗体、つまり免疫を持っていることになる。

この新型コロナウイルスに作用する免疫グロブリンを投与することが回復者血漿を使用する目的になる。

これまでエボラ出血熱など有効な治療薬のない新興再興感染症に対する治療の選択肢の一つとして使用されてきた。

実際に、SARSやMERSにも投与されたことがあります。

回復者の血漿にはSARS-CoVやMERS-CoVに対する中和抗体が含まれており、これを患者に投与することで抗ウイルス作用を発揮するものと考えられる。

しかし、解決すべき課題として、回復者からの血漿採取の手順の整理、血漿中に新型コロナウイルスが血液中に含まれないことの確認、抗体が十分に産生されていることを確認する方法の検討、輸血と同等の感染症スクリーニングなどがあり、容易に行うことができない治療法ともいえる。

 

トシリズマブ(商品名アクテムラ、中外製薬

トシリズマブ(商品名アクテムラ)はヒト化抗ヒトIL-6受容体モノクローナル抗体で、インターロイキン-6(IL-6)というサイトカインの作用を抑制し免疫抑制効果を示す分子標的治療薬だ。

関節リウマチなどの膠原病疾患に使用される薬剤だが、新型コロナウイルス感染症の治療薬の候補にもなっている。

 

まだ論文にはなっていないが、プレプリント(論文化される前、査読前)の状態で臨床研究のデータが閲覧可能になっている。

これによると、20人の患者に対して通常の治療に加えてトシリズマブを投与した結果、必要な酸素の量が減ったり、肺炎の画像所見が改善したとのことだ。

しかし、この研究は対象となる群がないので、この研究をもってトシリズマブの有効性は評価できない。

 

ナファモスタット(商品名;フサン、鳥居薬品日医工、後発品あり)

呼吸器上皮に発現している宿主のタンパク分解酵素のひとつであるTMPRSS2は、新型コロナウイルスの肺炎発症に関与している可能性が示唆されています。

このTMPRSS2に対して活性のあるセリンプロテアーゼ阻害剤カモスタットが、TMPRSS2細胞への新型コロナウイルスによる侵入を阻害したという報告がCell誌に掲載されている。

 

この結果から、カモスタットや類似薬剤であるナファモスタットが新型コロナウイルス感染症に有効である可能性があるのではないかと考えられ、東京大医科学研究所もナファモスタットが新型コロナウイルスの感染を阻止する可能性があると発表しています。

 

記事によると、人での実際の効果については国立国際医療研究センターなどと近く臨床研究を始める方針という。

この他、アルビドル、インターフェロンなどが中国では使用されているが、まだ確実に有効と言えるものではない。

また新型コロナウイルス感染症から治癒した人の血液中にある「新型コロナウイルスに対する抗体」を抽出した回復者血漿と呼ばれる血液製剤も有効である可能性があるが、今後の評価を待つ必要がある。

 

 

参考

カレトラ(抗HIV薬)に治療効果は証明されず 新型コロナ治療薬 候補薬(2020年3月20日時点)

https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20200320-00168754/

 

「NCGM COVID-19入院患者の背景・症状・診断・治療の概要」

http://dcc.ncgm.go.jp/core/pdf/20200221_2.pdf

 

新型コロナウイルス感染症対策本部(第12回)

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/novel_coronavirus/th_siryou/sidai_r020223.pdf

 

ヒドロキシクロロキンを使用し症状が改善した COVID-19 の2例

http://www.kansensho.or.jp/uploads/files/topics/2019ncov/covid19_casereport_200312_5.pdf

 

COVID-19 肺炎初期~中期にシクレソニド吸入を使用し改善した 3 例

http://www.kansensho.or.jp/uploads/files/topics/2019ncov/covid19_casereport_200310.pdf

 

#新型コロナ治療薬

https://twitter.com/hashtag/新型コロナ治療薬

 

新型コロナに急性膵炎治療薬=感染阻止、臨床研究へ―東大

https://medical.jiji.com/news/29568

 

新型コロナウイルス感染初期のウイルス侵入過程を阻止、効率的感染阻害の可能性がある薬剤を同定(東大)

https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/about/press/page_00060.html