新型コロナ、がん患者の不安

新型コロナ、がん患者の不安

新型コロナウイルスの感染が広がり、がん患者や経験者らの不安が増している。

発熱などの症状が出たときの受診に迷いが生じる一方、検査や治療の延期といった影響が出ている地域もある。

対面の相談が難しくなる中、専門家や患者会はインターネットを通じた情報発信や交流を進めている。

 

■ 発熱「感染?」受診に迷い

神奈川県 内に住む男性(21歳)は、首都圏で新型コロナウイルス感染者が増加し始めた3月下旬、38度を超える熱が出た。

男性は17歳の頃、骨肉腫の手術と抗がん剤 治療を経験。

今年2月中旬にも、転移した肺の手術をしたばかり。

「新型コロナだったらどうしよう・・・」と不安が頭をよぎった。

 

だが、主治医のいるがん専門病院での治療は終えていた。

男性には迷いがあった。

「がんの治療を終えているのに、コロナの不安をがん専門病院に相談していいのだろうか」。

さらに「がん専門病院に行って、他のがん患者にうつしてはいけない」とも考えた。

一方で、新型コロナを疑う人が集まる一般病院の外来は感染リスクが高そうで、行きにくかった。

 

そこで保健所の帰国者・接触者相談センターに連絡。

様子をみたが3日経っても熱は下がらず、地元の 総合病院を受診したが診断はつかなかった。

男性は、 抗がん剤治療中に 白血球の数値が下がり高熱を出して入院したこともあり、「熱を出しやすい体質かもしれない」と不安だった。

「2月の手術が影響しているのか、ウイルスのせいなのか、原因が分からないのが怖かった」

 

6日目になっても熱は下がらず、心配になった母親はがん専門病院の主治医に連絡。

主治医から「持病のない人よりは重症化しやすいと言われている。我慢しすぎないように、今後は遠慮せず連絡して」と促された。

電話で様子を聞き取った主治医の指示で解熱剤をのみ、7日目にようやく平熱に戻り、その後、回復したという。

 

■ 重症化「むやみに恐れず相談を」

がん患者が新型コロナ に感染すると、持病のない人に比べてどんな傾向があるのか。

2月末に公表された世界保健機関(WHO)と中国の共同調査報告書によると、感染が確定した約5万6千人の分析では、持病の無い人の致死率は1.4%だった。

一方、 循環器疾患の患者で13.2%、糖尿病患者9.2%、がん患者は7.6%など持病のある人は高かった。

 

米医師会雑誌に報告された武漢の病院でがん治療を受けていた患者のデータ分析によると、新型コロナの罹患率は0.79%で、一般の人よりも2倍感染しやすいという。

 

がん治療中の患者は、やや重症化しやすい傾向にあるが、他の基礎疾患に比べてとりわけ高いわけではないし、かかったら必ず重症化するというものでもない。

むやみに恐れる必要はない。

 

とはいえ、感染の心配がある場合などは、 がん治療中でも、治療を終えて経過観察中の人も、主治医やがん専門病院の「相談支援センター」に電話で相談するようすすめる。

 

日本癌学会と日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会の3学会は、がん患者向けの注意点をQ&Aにまとめ、各学会のホームページで公開した。

がんの治療継続についての考え方を示したり、生活上の注意点や不安への対処法などを紹介したりしている。

 

Q&Aでは、感染リスクを下げるため、電話やオンライン診療を活用し、通院する場合も自家用車の利用をすすめる。

がんの治療や受診の延期・中止については自分で判断せず、主治医に聞くことをすすめる。

抗がん剤などの薬物治療やホルモン治療を継続すべきかのポイントを紹介。部位ごとに、手術や検査を受ける目安なども掲載する。

 

予定していた治療が変更になり、がんが進行しないかと心配になる人は、心配なことや質問を書き留めておき、主治医に質問をしよう。

 

治療を受けるために外に行くことで、新型コロナウイルスへの感染リスクは上がる。

どちらをより重視するかは、患者さんそれぞれのがんの状態や治療の中身、住んでいる地域の流行状況などによる。

主治医とよく相談したい。

 

筋力や体力の低下も懸念される。

国立がん研究センターは、手術後や薬物療法 中の患者でも自宅でできる呼吸練習や腹筋などの運動を解説した動画をホームページhttps://www.ncc.go.jp/jp/ncch/clinic/orthopedic_surgery/040/index.html

で公開している。

 

■ オンラインで医師が解説

対面支援が難しい中、患者団体も動き出した。

がんの経験者や家族、医療者らが有志で作る団体「CancerX」は4月下旬にオンラインのセミナーを開催。

約500人が参加し、患者らの質問に医師らが次々と回答。

「参加してよかった」と感想が寄せられたという。

リポートがウェブサイト(https://cancerx.jp/)に掲載されている。

 

日本対がん協会も、 がん治療中の患者らが注意すべき点について、感染症 専門医らが語る動画をホームページで公開する。

 

乳がん子宮がんなど女性特有のがんの経験者らが情報交換するSNSを運営している一般社団法人「ピアリング」は、4月19日から1週間、ウェブサイトを通して会員にアンケートを実施。

回答した約1100人のうち、24.7%にあたる272人が治療に影響があったと答えたという。

診察の延期だけでなく、検査や 抗がん剤放射線治療の遅延もあった。

体調に変化がないと答えた人は約3割で、7割の人に「気分が落ち込んで暗くなる」「不安で眠れない」など体調の変化があった。

 

全国がん患者団体連合会(全がん連)にも、加盟団体を通じて不安の声が寄せられる。

患者らは治療中であることを周囲に言えないなど、もともと悩みを抱え込みがちで、接触を避けることでさらに孤独になっている。

全がん連も医師らを招き4回の患者向けウェブセミナーを開き、一部の動画を公開中だ。

 

ただ、パソコンなどの操作が苦手な人もおり、主催する患者会では会報を送るなどの活動も続けている。

感染への恐れなどから家に閉じこもっている人も多い。

患者会や、がん相談支援センターの電話相談窓口などでつながり

を持ってほしい。

 

参考・引用一部改変

朝日新聞・朝刊 2020.5.23

 

<関連サイト>

がん患者が新型コロナ流行時に気をつけるポイント

https://wordpress.com/post/aobazuku.wordpress.com/1052