糖尿病薬「SGLT2阻害薬」広がる効果 合併症を予防
糖尿病の薬「SGLT2阻害薬」を使った大規模な臨床試験で、心血管疾患や腎障害といった合併症の予防に効果があるとする結果が出ている。
糖尿病ではない心不全の患者の治療薬となる可能性もあり、注目されている。
体重・血糖値に加えて腎症も改善
・千葉県の50代の男性会社員は約10年前、2型糖尿病と診断された。
体のだるさが激しくなり、2017年から船橋市立医療センターで本格的な治療を始めた。
・心血管疾患につながりかねない高血圧や脂質異常症、糖尿病による腎症と網膜症も起きていた。
・主治医の指導で、食生活ではカロリーを制限し、通勤時間にはウォーキングをした。
1日のたばこの量を減らす「節煙」にも取り組んだ。
薬による治療も始めたが、血糖値は十分に改善しなかった。
・男性は心血管疾患のリスクが高いが、近年、この予防効果が報告されている「SGLT2阻害薬」を薬に追加した。
尿中の糖を血液中に吸収させないようにし、尿とともに排出させることで血糖値を下げる。
日本では14年4月から販売され、現在は6種類の7製品が糖尿病治療に使われている。
・すると、82キロあった体重は、最初の1カ月で2キロ減少。
1年半ほどで計6キロ減った。
血糖値も改善し、腎症で出ていた「たんぱく尿」も減った。
・ただし、注意点もある。
薬をのみ始めてからしばらくは、利尿作用にともなう脱水症状が起こることがあるため、高齢者には慎重に使う必要があるとされている。
尿路・性器感染症の副作用も報告されている。
心不全の治療薬として期待
・SGLT2阻害薬の一つ「エンパグリフロジン」を使った、心血管疾患がある2型糖尿病の患者に対する臨床試験(15年発表)では、心血管疾患による死亡を約40%減らし、心不全による入院も減少させる効果が示された。
・同じタイプの薬「カナグリフロジン」を、心血管疾患のリスクが高い2型糖尿病患者に対して使った臨床試験(17年発表)では、心血管疾患を予防する効果とともに、腎症の進行を抑制する傾向がみられた。
・米国糖尿病協会の診療ガイドラインでは、治療の第1段階では、食事や運動などによる生活習慣の改善と、治療薬として、肝臓で糖がつくられるのを抑えることで血糖を下げる「メトホルミン」を使うことを基本とし、心血管疾患や腎障害のある患者には、SGLT2阻害薬を優先して使うようにすすめている。
・日本循環器学会と日本糖尿病学会が3月、初めて共同で出した声明では「心不全のリスクが高い糖尿病患者」に対しては、生活習慣の改善などに加えて「SGLT2阻害薬を推奨する」とした。
・日本糖尿病・生活習慣病ヒューマンデータ学会が医師向けにつくる「糖尿病標準診療マニュアル」も4月の改訂で、薬の選択について、1番目はメトホルミン、2番目はインスリンの分泌を促すとともに血糖上昇ホルモンの分泌を抑える「DPP―4阻害薬」とし、その次に加える場合は、心血管疾患や早期の腎障害、肥満のある患者には、SGLT2阻害薬を、ほかのタイプの薬に「優先してよい」と新たに記載した。
・糖尿病の人で、心血管疾患や早期の腎障害を合併している人は多い。
これらの病気に対し、SGLT2阻害薬の予防効果が分かってきて、薬の選択肢が広がっている」と話す。
・さらに、SGLT2阻害薬「ダパグリフロジン」を使った臨床試験(19年9月発表)では、糖尿病の合併症の有無にかかわらず、心不全の患者で心不全の悪化や心血管疾患による死亡を減らすと、統計学的に示された。
販売元のアストラゼネカは1月、従来の糖尿病に対する治療薬としてだけでなく、慢性心不全の治療薬としての効能を追加するよう厚生労働省に申請している。
コメント;
糖尿病の薬剤を、糖尿病を合併していない慢性心不全の治療薬人に投与することになります。
当然のことながら、低血糖の心配は必要となります。
参考・引用一部改変
朝日新聞・朝刊 2020.5.20
<関連サイト>
SGLT2阻害薬の作用のしくみ