糖尿病の新しい治療薬

相次ぎ新登場 糖尿病薬、体への負担軽く

糖尿病の新しい治療薬がこの1年間に相次ぎ登場した。
これまでの薬だと低血糖や体重増を招くこともあったが、多くの患者でこうした弊害を回避でき、血糖値の改善効果が出始めている。
一方で既存薬との併用や切り替えに問題がある例も報告され、新たな課題となっている。


昨年12月以降、糖尿病の9割以上を占める2型糖尿病向けに相次ぎ登場したのは「インクレチン関連薬」。インクレチンはホルモンの一種で、食事をすると腸管から出て膵臓に働き掛け、血糖値を下げるインスリンの分泌を促す。
グルカゴンと呼ぶ血糖値を上げるホルモンが出るのも抑える。

血糖値が高い時だけ働くが、糖尿病の人はインクレチンが出にくいことがわかっていた。
そこで開発されたのが、インクレチンの一種「GLP-1」に似た人工ホルモンの注射薬と、「GLP-1」を壊してしまう酵素の働きを抑える飲み薬。
国内では注射薬が1種類と飲み薬3種類(4製品)が販売されている。


血糖値に改善効果
都内在住のAさん(58)は8年ほど前から糖尿病の治療をしている。
膵臓のβ細胞に直接働きかけてインスリンを出す血糖降下薬で治療してきたが、1~2カ月間の血糖値平均値(HbA1c)は正常値の2倍以上の12%で、血糖コントロールができていなかった。

7月から人工ホルモンの注射薬「ビクトーザ(一般名リラグルチド)」を使用、2週間後に同10.7%、11月には同6.2%に下がった。
伍々さんは「注射には抵抗もあったが痛みは少ない。最初は悪かったおなかの調子も治まり、怖いぐらいに効いている」と話す。
体重も1キログラム減った。

<私的コメント>
短期間に急激に血糖値を低下させるこういった治療は、眼底出血を誘発させるなどの問題もあり、一般的には良くないといわれています。


肥満体形で25年前から糖代謝に異常があり、放っておくと糖尿病に移行すると医師からいわれていた東京都のBさん(61)も、4月から飲み薬のDPP―4阻害薬「グラクティブ(一般名はシタグリプチン)」を毎朝1回服用。
半年でHbA1cは6.4%から正常値に近い同5.9%に下がった。体重増加もないという。

2人の治療にあたる主治医は「インクレチン関連薬だと、低血糖も体重増加もみられず、患者の満足度も高い」と評価する。

低血糖の症状は血糖値が正常値の下限とされる血液1デシリットル中70ミリグラム未満になると起きることが多い。
目まいや頭痛、吐き気に始まり、ひどくなると失神する。
こうした低血糖症状を経験すると薬を飲むのが怖くなり、服薬をさぼり血糖コントロールを悪化させる一因でもあった。

従来の治療薬は血糖値を確実に下げる一方、低血糖により耐え難い空腹感が生じ、さらに食べて太るという課題があった。
太れば脂肪が出す物質の影響でインスリンが効きにくくなる。

新薬は従来薬と比べ、血糖降下作用はそれほど強いわけではないが、併用でスルホニル尿素(SU)薬の量を減らせるのが利点だ。
SU薬は国内で最も多く使われている治療薬だが、低血糖を起こしやすかったり、長期に大容量で飲み続けたりすると、膵臓のβ細胞が疲弊する原因にもなるといわれる。


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60代男性が死亡
もちろん、新薬も良い面ばかりではない。
60代の男性2人が、従来のインスリン製剤から人工インクレチンの注射薬に切り替えたところ、高血糖を起こして血液中に代謝産物が異常に増え、死亡した。
DPP-4阻害薬をSU薬と併用する65歳以上の高齢者を中心に重症の低血糖を起こす事例も続いた。

死亡例が出たことに専門医らは「新薬の使用は患者自身のインスリンが一定量出ていなければならない」と強調する。
発症時からインスリンが不足する1型糖尿病や長期に2型糖尿病を患い、既にインスリンが枯渇している人には使えない。
新薬による治療の前に,インスリン量が不足していないかをきちんと検査して確かめる必要がある。

また、SU薬との併用者に起こった極端な低血糖は科学的には分かっていない。
ただ、SU薬の効き目を高めた可能性もある。
岩本教授らは高齢者や腎機能が低下している人にはSU薬を減量するよう推奨する。
出典 日経新聞 Web刊 2010.12.3
版権 日経新聞




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