筋肉痛の予防策

筋肉痛 大切なのは予防策

運動会や紅葉狩りの山歩きで張り切った後、しばらくしてから筋肉痛に見舞われることはよくある。
誰もが経験したことのある痛みだ。
筋肉痛にならずにすむことはできるのか。
筋肉痛のメカニズムや対策を探った。

東京学芸大学の宮崎義憲教授は東京・池袋のサンシャイン60で階段の上り下りでどちらが筋肉痛を引き起こしやすいかどうかを調べる実験をした。
各7~8人からなる2グループのうち、片方のグループは60階の階段を上り、もう片方のグループは下った。
上りのグループがへとへとだったのに対し、下りのグループは余裕だったという。

ところが、翌日、強い筋肉痛で足を引きずり、青い顔をしていたのは下りのグループ。
上りのグループはすっかり回復していた。
宮崎教授も「ここまで明確な違いが出るとは思わなかった」と苦笑する。


炎症反応が正体か
階段や坂道を下るには「エキセントリック収縮」と呼ぶ筋肉の動きが必要。
腕を曲げて持ち上げていた荷物を下ろす場合も同じで、たまにこの動きをすると筋肉痛を起こしやすい。

腕にかけた荷物を下にゆっくりとおろすような、伸ばしながら力を出す動作は実は筋肉には負荷になる。
階段の実験のように、上り階段は筋肉を疲れさせるが、下り階段で細い筋肉は切れてしまうのだ。

ただ、切れるのはごくわずかで痛みそのものの原因ではない。
切れた破片などを片付けようと炎症反応が起き、筋肉が腫れ、筋肉を動かすと腫れた筋肉同士がこすれ合って痛む。
痛みの関連物質も出る。
これが運動後1~2日後に起きる痛みの正体の反応とされる。
破片が片付くと新しい筋肉の再生が始まる。

時間とともに治まる痛みだが、回復を早める方法はないのだろうか。
専門家は「切れたものを治すには、必ず通らなければならない道だ」と口をそろえる。
炎症反応なので運動直後は冷やし翌日以降は温めて血液循環をよくするのが基本だが、あくまで過剰な炎症を防ぐ痛み軽減策にすぎない。

運動後のストレッチやマッサージも同じで、翌日以降にこわばった筋肉をほぐして血液の循環をよくすれば痛み関連物質が散って少し楽になるかもしれない。
ただ、回復自体は早まらない。

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急な運動は避けて
効果的な対策は筋肉が切れないようにする予防策しかない。
近畿大学の谷本道哉講師によると「一度筋肉痛が起きるとその後は耐性ができることが知られている」。
このしくみを利用し、運動不足を自覚しているなら少しずつ体を慣らしておこう。

山歩きを控えているなら、階段を下りる動きや下り坂の散歩を日常に取り入れてみる。
野球なら素振りをする。
実際の動きの激しさに近いと理想的だが「1週間前から1日おきにでもいいので、少しずつ動きに慣れておくと違う」と東海大学の有賀誠司教授はいう。
自然な動きの中で筋肉をほぐす「ダイナミック・ストレッチ」を運動前にすれば、けが予防にもなる。

時間がなく、もう明日が試合などといった場合は「急に運動はしない方がいい。するとしても軽めにしておく」(宮崎教授)。
前日に張り切ると疲れが残り、当日は筋肉痛でかえって動けなくなることもある。
(鴻知佳子)

筋肉痛にまつわる「定説」 ホント?
筋肉痛にまつわるもっともらしい「定説」がいくつかある。
どれほど正しいのだろうか。

まずは「筋肉痛は乳酸が原因」という説。
実はかつて考えられていたメカニズムで、今はほぼ否定されている。
運動によって筋肉内に乳酸はたまるが、これは疲労関連物質。
文中の階段の実験だと、上りで感じる足の重さなどに関連すると考えられている。

年をとると筋肉痛が遅れてくるという説も科学的な裏付けはない。

ただ、痛みを定量的に測って比較するのは難しい。
高齢になると体の中のさまざまな反応が鈍くなるのは確かで、炎症や筋肉修復が遅くなっても不思議ではない。
「多くの人が感じる現象なので全くのうそではないのでは」(宮崎教授)という意見もある。

筋肉痛を伴わないトレーニングは効果がないという考え方も正しくない。
筋肉痛後、細かった筋肉がより太く再生するので一つの目印にはなるが、筋肉痛が起きにくいトレーニングもある。

最近の研究で筋肉の細かな損傷や炎症反応を伴わない筋肉痛もあることが分かってきた。
筋肉痛が一つだけのメカニズムで起きていない可能性がある。

出典 日経新聞・朝刊 2010.11.28
版権 日経新聞




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