軟骨のすり減り

■サプリの有効性は検証途上
ひざや腰の痛みは、多くの人の共通の悩み。
原因は様々ですが、関節の「軟骨」がすり減ることも原因の一つ。
軟骨といっても、実は骨ではありません。
では、どんなものでしょうか。

軟骨は、関節の表面を覆いクッションの役割を果たしています。
東京医科歯科大学の浅原弘嗣教授は「硬いゴムのようですが、押すと弾力があります」と言います。
今の技術でも再現できないほど摩擦が小さく、表面はなめらか。
軟骨の間には保水成分「ヒアルロン酸」を含む関節液があるので、骨同士がぶつからずスムーズに曲げられます。
軟骨や関節液はX線に映らないので、X線写真だと骨と骨の間にすき間が見えます。

軟骨内も保水成分が豊富で、7、8割は水です。
網目状のコラーゲンの線維の間に、ヒアルロン酸とさらに保水に優れた「プロテオグリカン」が入り込み、軟骨細胞を取り囲んでいます。
コラーゲンはたんぱく質で、ゼリーを作る際に使われるゼラチンの原料です。
プロテオグリカンは、糖とたんぱく質が結びついたものの総称で、最近はこの成分の入った薬や化粧品もあります。

痛みの原因の一つである軟骨のすり減りは、長年関節を使い続けたことに加え、筋力が衰えて関節を支える力が弱くなったことで起こります。
体重が重い人や力仕事を続けてきた人は、より大きな負担が関節にかかっています。
一方で、高齢でもきれいな軟骨のままの人もいるので、遺伝も関係していると考えられています。

骨がすり減って変形する「変形性関節症」は、股関節や手足、背骨の関節で起こります。
予備軍を含めると、ひざで2500万人の患者がいるとも言われています。
軟骨には血管や神経が通っておらず、軟骨自体が痛むわけではありません。
軟骨がすり減ると、骨がぶつかり、その刺激で骨が痛みの原因となることがあります。
刺激によって関節を囲む滑膜が炎症を起こし、滑膜から痛みが出ることもあります。
すると体を守ろうと関節液が余分に出て、腫れた状態になります。
これが「水がたまる」状態です。
ただ、痛みは、体を守るはずの自分の免疫によって炎症が起きる関節リウマチなど、ほかの病気の可能性もあります。

軽症なら、まず減量し、関節に負担がかかる姿勢を長時間とらず、関節を支える筋肉を鍛えることが大切です。
日本整形外科学会では、目を開けたまま片足を少し上げる「開眼片足立ち」や「スクワット」など、ロコトレと呼ばれる運動を勧めています。

痛みは、飲み薬や貼り薬で炎症を抑えるほか、ヒアルロン酸を関節に注射することも効果があるようです。
関節にサポーターを巻いたり、杖を使ったりして負担を減らす方法もあります。
O脚になってひざの痛みが出ることも多く、すねの骨を切ってゆがみを直すこともあります。
軟骨の部分をセラミックなどの人工関節に置き換える手術もあります。

事故で軟骨を失った人には再生医療も注目されています。
軟骨細胞や様々な細胞の元になる幹細胞を取り出して培養し、軟骨が傷ついた部分に移植する方法です。

  

軟骨成分を含むサプリメントについては、研究者の間でも意見が分かれています。
「軟骨の成分の一つ、グルコサミン(プロテオグリカンの材料)の有効性が認められた」という論文もありますが、本当に多くの人に効果があるかどうかは検証がもっと必要です。

日本のような国民皆保険でなく民間の保険が主流の米国では、サプリも治療の選択肢になっています。
ですが日本では、保険が適用される医薬品に明確な検証と効果を求めるので、サプリは健康食品扱いです。
まずは生活習慣の改善が確実な治療の第一歩です。

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■記者のひとこと
開眼片足立ちは、転ばないように気をつけて、左右1分ずつを1日3回。
スクワットは、いすやソファの前で腰掛けるような感じで、5~6回お尻をゆっくり下ろし、また上げます。
1日3回以上が目標。肩幅に広げた足先を30度ほど外側へと開いて、同じ方向にひざを曲げてください。(杉本崇)


出典 朝日新聞・朝刊 2012.4.28
版権 朝日新聞社


<関連サイト>
変形性膝関節症
http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy/archive/2011/11/01


グルコサミン その1(1/2)
http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy/archive/2008/03/24

グルコサミン その2(2/2)
http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy/archive/2008/05/11

膝関節」の軟骨が傷むメカニズム:①関節軟骨の構造と機能(その1)
http://blogs.yahoo.co.jp/tmizuo3333/30117874.html


他に
井蛙内科開業医/診療録(4)
http://wellfrog4.exblog.jp/
(H21.10.16~)
井蛙内科開業医/診療録(3)
http://wellfrog3.exblog.jp/
(H20.12.11~)
井蛙内科開業医/診療録(2)
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葦の髄から循環器の世界をのぞく
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があります。