コロナ感染 治療に影響大きく
持病のある人が新型コロナウイルス感染症に弱いことはご存じだと思う。
中国の報告でも、感染者の死亡率は心血管疾患10.5%、糖尿病7.3%、慢性呼吸器疾患6.3%、高
吸器疾患6.3%、高血圧6.0%、がん5.6%とされている。
がんは他の病気と比べて、とくにコロナ感染で致死的になりやすいわけではないが、がん治療には大きな影響が出ている。
世界保健機関(WHO)は1日、このウイルスの感染拡大による医療への影響を発表した。
7割超の国が、新型コロナウイルス感染症の広がりで、他の病気の治療が影響を受けたと報告し、がん治療に影響があったと答えた国が42%に上りった。
がん患者や医療者など582人に対する国内の調査でも、約2割の人が「がん治療や手術において、新型コロナの影響を受けている」と回答している。
さらに6割近くの人が、「影響を懸念している」と答えている。
がん治療の延期や中止の理由には、安全に治療できないほか、がん治療による感染と重症化リスクの上昇があげられる。
事実、がん患者が新型コロナウイルスに感染した場合、がんの部位や治療法によって、死亡率が高くなるというデータが出ている。
胸部のがん(9割以上は肺がん)の治療を受けた400人について分析した結果、新型コロナウイルス感染と診断された日から過去3カ月以内に化学療法を受けた患者では、新型コロナウイルスによる死亡リスクが有意に高くなったことが分かった。
400人中死亡したのは約140人で、その約8割が新型コロナウイルス感染症で亡くなった。
がんの進行に伴う死亡は1割程度だった。
死亡者のうち、化学療法を受けていたのは約半数の47%だったが、放射線治療を受けていたのは9%にすぎなかった。
がんの治療法により、新型コロナによる死亡リスクが左右されることが分かった。
新型コロナのリスクを加味した総合的な判断が求められるといえるだろう。
ただ、治療法の変更や延期は、これまでの経過や病状をよく知る主治医にしかできない。
患者個人の独断は避け、よく相談していただきたい。
執筆
東京大学病院・ 中川恵一准教授)
参考・引用一部改変
日経新聞・朝刊 2020.6.17