マスク、熱中症のリスクにも

「全人類が経験ない夏」へ マスク、熱中症のリスクにも

全国各地で本格的に夏日を記録し始めるこの時期から、気をつけたいのが熱中症

新型コロナウイルス対策によるマスク着用や自宅で過ごす「巣ごもり」が、そのリスクを高める可能性もある。

熱中症患者の増加が、医療体制の崩壊につながりかねないという懸念も出ている。

 

われわれは、夏場に大勢の人がマスクをつけて過ごすという、全人類が経験したことがない夏を迎えることになる。

 

人間は通常、体温より低い空気を吸いこみ、鼻の中や肺の中で温められた息を出す。空気が体内の熱を奪うことで、体が冷やされるという仕組みだ。

 

それがマスクをつけていると、吐いた息がマスクでブロックされたり、呼吸で温まっているマスクを通じて息を吸ったりすることで、体がより熱を持ちやすくなってしまうという。

 

また、マスクをつけていることで呼吸に負担がかかり、肋間筋や横隔膜を必要以上に働かせることになる。

運動しているのと同じ状態となるため、体温が上がって熱中症のリスクを高めるという。

 

学校の再開に向けて文部科学省が22日に公表した衛生管理マニュアルでは、常時マスク着用をすすめるが、「熱中症などの健康被害が発生する可能性が高いと判断した場合は、マスクを外してください」と明記。

体育の授業では着用の必要はないとした。

 

一方で、マスクをつけていることが、熱中症症予防に有利に働くかもしれない面もある。

マスクをつけていることにより、息を吸ったり吐いたりするときに湿度が保たれるため、呼吸により失われる水分を抑えられる。

マスクをつけることのプラス面とマイナス面を相殺し、熱中症のリスクが上がるかどうか、ということだ。

 

夏向けマスクとして、通気性がいいマスクや、水で冷却できるマスクも販売されているが、効果はどうなのか。

熱中症の予防に効果があるかどうかを考える前に、新型コロナ対策として感染予防効果が証明されたマスクかどうか、確認しておく必要がある。

 

医療崩壊の危機 巣ごもりで高まるリスク

医師と看護師が熱中症の予防啓発に取り組む「敦えて!『かくれ脱水』委員会」は今月、「このまま熱中症シーズンを迎えたら、日本の医療現場は崩壊します!」とする緊急提言を発表した。

 

昨年5~9月の熱中症による救急搬送者数は全国で約7万人。

提言は、コロナ禍の中で例年並みの熱中症患者が救急搬送されれば、「医療機関の多くが機能しなくなるリスクがある」と指摘する。

 

提言を監修したのは、副委員長のT・済生会横浜市東部病院患者支援センター長。

同病院では40床の一般病棟を20床に減らし、コロナ患者の専用病棟にした。

待てる手術や検査は待ってもらい、コロナ対応に注力している状況だ。

 

熱中症は重症化すれば、人工呼吸や人工透析の機器が必要になる場合もあり、限られた医療資源や人手を割かざるをえなくなる。

また、発熱や倦怠感など新型コロナと熱中症の初期症状は似ている。

実際は熱中症患者でも、防護服着用などの態勢で受け入れざるをえなくなる可能性もある。

 

T医師は「熱中症は予防が大切で効果も大きい。医療機関にかからないで済むよう、多くの方に努力をお願いしたい」と訴える。

 

また、コロナ禍の終息が見えない状況で、例年よりも自宅で過ごす時聞長く

なることも予想される。

だが、総務省消防庁のまとめでは、昨年の熱中症による救急搬送では、最も割合が高かった発生場所は住居で約4割を占めた。

今年は窓を開けて換気する機会が増え、冷房で室温調節することが難しくなる可能性もある。

 

一方、昨年の搬送者の約半数を占めたのが高齢者。

年をとると、体に水分を蓄える能力や、温度を感じる能力、体の熱を外に逃す能力が落ちる。

高齢者の熱中症対策として、

①水分摂取の徹底 

②温度や湿度の調節では温度計や湿度計を見る 

③室内での運動や屋外での軽い散歩をする

を心がけたい。

 

参考・引用一部改変

朝日新聞・夕刊 2020.5.25