新型コロナ重症患者救う「最後の砦」

新型コロナ 人工肺稼働に人材不足の壁  重症患者 「命の選択」防ぐ正念場 

新型コロナウイルスの感染者の治療薬が開発されていないなか、重症患者の"最後の砦"と期待されるのが人工肺だ。

肺の代わりの機能を果たし、肺を休ませて回復を目指す。

だが台数に限りがあるうえ、適切に使える経験豊富な医療者は少ない。

ワクチンの開発は1年以上かかるとみられ、重症患者が増えれば「どの患者に使うのか」という「命の選択」を迫られることになる。

 

6~7割程度の新型ウイルスの重篤患者に効果が見込めるのではないか、と期待がかかるのが「体外式膜型人工肺」。

通称ECMO(エクモ)だ。

人工呼吸器は患者の肺を活用するが、エクモは患者の肺を休ませ、免疫機能が働くまでの時間を稼ぐ。

3月30日までの症例を検討した結果では、40人中、既に19人が危篤状態を脱した。

治療法が確立していない現状で厚生労働省は「救命の最後の砦」とみており、エクモの整備を進めるよう3月に都道府県に通知を出した。

重症の肺炎患者にエクモを利用する場合、1週間以上にわたることが多い。

回路が詰まらないように血液が固まらない薬剤を使用するため、患者は出血しやすいなど長期のケアには経験が必要だ。

同学会などの調査では2月時点で全国に約1400台あるが、一度に利用できるのは300人程度と人材の少なさが課題となっている。

このため医療機関に助言する組織を立ち上げ、500~700人が対応できる態勢を目指すが、爆発的な感染者の急増(オーバーシュート)が起きれば救命可能性の高い患者の治療を優先する「トリアージ」を迫られる。               

一般的にはエクモを使っても65~70歳以上になると救命可能性は低くなるため使わない。

つまり、年齢が基礎的な判断基準になる。

肺に負担がかかる人工呼吸器を長期間利用していると、エクモを使っても効果が出にくい。

人工呼吸器を使っていた期間は「1週間が分かれ目になる」という。

エクモを2週間を超えて使っても効果が見込めない場合は、ほかの患者の救命のためにエクモを離脱する選択も迫られることもある。

 

医療資源が限られているのはエクモだけではない。

3月下旬時点で北海道、東京、愛知、大阪、兵庫の5都道府県に調査した結果、新型コロナ対策で確保した病床数は140~600床のみ。

厚労省によるピーク時の想定では、入院患者は5都道府県で約9800~約2万人に上る。

その後、確保病床は上積みされているが、オーバーシュートしなくても病床不足に陥る状態だ。

 

その際、軽症や無症状の感染者を自宅などの療養に切り替えるだけでなく、広域連携で感染者の少ない周辺地域への搬送も重要だ。

だが自治体からは「どんな症状の人をどこで受け入れるべきか、詳しい基準が示されておらず準備が進みにくい」との声も上がる。

 

患者のトリアージを巡っては横浜港で検疫が行われたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」での対応が参考になる。

700人超の感染者が判明し、神奈川県の確保済みの病床を一気に超えたため、感染者を3段階に分けて対応した。

 

まず強い呼吸苦を訴えるなど緊急に治療が必要なケースは市内の救急病院で治療する。

軽い呼吸苦や倦怠感にとどまる場合は県内で対応し、自覚症状がない人は広域搬送となった。

今後、感染が拡大した場合、県内や、広域搬送の対象者は自宅などでの療養の可能性がある。

横浜市立大学竹内一郎主任教授(救急医学)は「呼吸状態によってさらに受け入れ先を分けている」と語る。

感染症指定医療機関の同市立市民病院では通常の人工呼吸器をつけるなどの重症患者を受け入れ、同大の高度救命救急センターでエクモの重篤患者などを受け入れたという。

 

人工呼吸器やエクモで救える命は限られているなか、期待されるのが感染を防ぐワクチンだ。

世界保健機構(WHO)は少なくとも開発に1年~1年半は必要とみているが、当面は投与できる量に限りがあるため接種の優先順位の議論が必要になってくる。

優先すべきは医療関係者、薬や医療機器の製造・供給の関係者だ。

治安・社会機能維持のために必要な要員も対象となる。

 

感染が進んでいる地域や、高齢者や基礎疾患のあるハイリスクの人に重点的に予防接種する計画を考えていくことになる。

こうした「命の選択」を迫られる状況に陥らないようにするため、日本は正念場を迎えている。

 

参考・引用一部改変

日経新聞・朝刊 2020.4.6