新型コロナウイルス感染症 「免疫暴走」防ぐ薬

「免疫暴走」(サイトカインストーム)防ぐ薬は  正常な細胞も攻撃、急速に重症化

新型コロナウイルスがひきおこす重い肺炎の治療薬候補のひとつに、免疫を抑える薬が注目されている。

本来は体を病気から守る免疫を抑えてしまうと、ウイルスが増えるおそれがあり、通常は使われない。

常識と違う使われ方をするのは、新型コロナの重症化の原因に、免疫が暴走する「サイトカインストーム」が指摘されているからだ。

どういうしくみなのか。

 

新型コロナに感染した患者の診療にあたる、大阪はびきの医療センターのT副院長は「急速に全身状態が悪化して、人工呼吸器が必要になる患者がいる」と話す。

 

こうした急速な重症化の原因とみられるのが、サイトカインストームだ。

2003年に中国などで流行したSARS重症急性呼吸器症候群)などでも影響が報告された。

 

「サイトカイン」とは、細胞から分泌され、さまざまな働きを持つ、たんぱく質の総称。

ウイルスが細胞に侵入すると、免疫にかかわるサイトカインの働きが強まり、免疫細胞を活性化して、ウイルスに感染した細胞を攻撃する。

感染症にかかると、発熱やだるさ、筋肉痛などが起こる。

これはサイトカインが働き、病原体と戦っている証拠だ。

 

ところが、何らかの理由でサイトカインが増えすぎると、免疫の働きが暴走する。

これが嵐(ストーム)のように急速に起こる状態が、サイトカインストームだ。

 

免疫が暴走しないように体内には複雑な仕組みが備わっている。

だが、ひとたびサイトカインストームが起こると、暴走した免疫が、感染した細胞だけでなく、正常な細胞も傷つけてしまう。

 

サイトカインストームでは、血液が固まりやすくなる恐れもあり、血流が止まる血栓の原因にもなりうる。

新型コロナの患者で脳梗塞が起きるケースが相次ぐなど、血管への影響が注目される。

 

 肺では、毛細血管をつくる細胞が傷ついたり、血管がつまったりして、必要な酸素が吸収できなくなる「急性呼吸不全」になってしまい、人工呼吸器などが必要になることがある。

心臓、肝臓や腎臓など、さまざまな臓器で正常な細胞が傷つき、最悪の場合は死に至ることもある。

 

■「候補薬」、大阪で重症患者に使用

新型コロナの治療薬ベクルリー(一般名レムデシビル)や、治療薬候補のアビガン(ファビピラビル)のような抗ウイルス薬では免疫の暴走は止められない。

そこで、免疫を抑える薬を使えば新型コロナ患者の重症化を止められるのではないか、と期待されている。

 

そのひとつが、アクテムラ(トシリズマブ)だ。

がんの治療の副作用で、サイトカインストームが起こることがあり、その対策に使われることがある。

もともと、免疫が誤って自分の体を攻撃してしまう、関節リウマチなどの薬として開発された。

 

大阪はびきの医療センターでは、アクテムラを新型コロナの重症患者に使っている。

新型コロナの治療薬としては国に認められていないため、「適用外使用」として、独自の基準を定めて使う。

 

アクテムラには、免疫にかかわるサイトカイン「インターロイキン6(IL6)」の働きを抑える作用がある。

同じ仕組みの薬はほかにもあり、「ケブザラ(サリルマブ)」などが、新型コロナの治療に使えないか調べられている。

 

IL6には多様な働きがあるが、サイトカインストームでは、中心的な役割を果たすと考えられている。

新型コロナウイルスが細胞に感染した時に、とりわけIL6の働きが強くなりすぎる仕組みがあると推定している。

 

さらに、サイトカインストームにかかわる、ほかのたんぱく質に作用する「オルミエント(バリシチニブ)」なども、海外で臨床研究が進められている。

 

サイトカインストームを抑えることができれば、新型コロナウイルスは恐ろしい病気でなくなる可能性がある。

 

参考・引用一部改変

朝日新聞・朝刊 2020.5.21

 

<関連サイト>

サイトカインストームを防ぐ薬は

https://aobazuku.wordpress.com