新型コロナウイルス、免疫を抑制か
免疫が働くために欠かせない情報伝達物質の生成をウイルスが邪魔していた。変異種の重症化リスクを探る手がかりになる可能性もある。
体内にウイルスなどの病原体が入り込むと、それを除こうとする免疫が働く。異物の侵入を伝えて、免疫を働かせる役割をするのが情報伝達物質の「インターフェロン」だ。
インターフェロンが少な過ぎると、体内でウイルスが増え続け、重症化につながる可能性がある。
英エディンバラ大学などは2020年12月に英科学誌ネイチャーに発表した研究報告で、インターフェロンに関わる人の遺伝子「IFNAR2」に注目した。この働きが強まると、重症化リスクが減る可能性を示した。
重症患者2244人のゲノムを解析し、健康な人と比べて見つけた。
米ロックフェラー大学などは人の遺伝子変異に注目した。
先天的にインターフェロンを作りにくい人は重症化しやすいと報告した。
オランダのラドバウド大学は、生まれつきインターフェロンを作れない20~30代の兄弟が感染し、重症化もしくは死亡したと20年7月に報告した。
ウイルスの影響も明らかになってきた。
香港大学などが20年4月に発表した論文によると、感染した人の肺の組織では、インターフェロンが通常よりも多く作られることはなかった。
インターフェロンが作られにくいので、ウイルスが増殖しやすいのではないかと説明している。
詳細な仕組みの解明が進む。
米マウントサイナイ医科大学などの研究チームは、ウイルスにあるたんぱく質「ORF6」に注目した。ORF6がインターフェロンを作る過程で必要な物質の働きを妨げていた。20年11月に論文発表した。
ウイルスのたんぱく質が変異すると重症化しやすいという報告もある。
東京大学や東海大学の研究チームは20年9月発表の論文で、エクアドルの患者で確認された変異ウイルスの報告をした。
2人の重症患者から見つけたたんぱく質「ORF3b」の変異体では、中国で確認された流行初期のウイルスよりも、さらにインターフェロンが作られにくいことを細胞実験で確かめた。
この2人は30代と40代だが、2人とも重症化し、うち1人は死亡したという。
ORF3bがインターフェロンの産生を妨げることも確かめた。
参考・引用一部改変
日経新聞・朝刊 2021.1.11
<関連サイト>
新型コロナウイルスは免疫の働きを妨げる
https://aobazuku.wordpress.com/2021/01/24/新型コロナウイルスは免疫の働きを妨げる/
コロナ重症化に5つの主要遺伝子が関与、英研究で判明
https://jp.reuters.com/article/health-coronavirus-genetics-idJPKBN28L2R7
・英国国内208カ所の集中治療室(ICU)でコロナ患者2700人のDNAを調べたところ、重症化に「IFNAR2」「TYK2」「OAS1」「OPP9」「CCR2」の各遺伝子が関与していた。
・研究の結果、どの薬剤を対象に優先的に臨床試験(治験)を行うべきかが浮き彫りになった。
特にJAK阻害剤(関節リウマチなどの治療薬)の類いが有望とした。
JAK阻害剤には米イーライリリーの「バリシチニブ」などがある。
【新型コロナ】関節リウマチ治療薬「バリシチニブ」のCOVID-19入院患者の治療を目的とした緊急使用許可をFDAが発令
http://dm-rg.net/news/2020/11/020575.html
・「バリシチニブ」(商品名:オルミエント)は、日本では「既存治療で効果不十分な関節リウマチ(関節の構造的損傷の防止を含む)」を適応症として承認されている1日1回経口投与のJAK阻害剤。
https://aasj.jp/news/watch/12749
・イベルメクチンが細胞質のタンパク質を核内へ運ぶ分子インポーチンと結合して、核内移行を抑制すること、そしてこの結果様々なウイルスタンパク質の核内移行が阻害され、エイズウイルスや、デングウイルスの増殖が低下することを示した。