在宅勤務、座りすぎずに
コロナ禍で導入された在宅勤務の継続で、企業の対応が割れているようだ。
伊藤忠商事のように段階的に出社に戻した会社がある一方、日立製作所などは多様な人材を活用できるなどとして、在宅勤務の継続を決めている。
実際に時間の有効活用、通勤の満員電車によるストレス軽減などで、在宅勤務を歓迎する人も多いようだ。
しかし、在宅勤務には良い面だけではなく、いくつかの落とし穴もありそうだ。
その一つが健康リスクの高まりだ。
通勤や得意先への訪問などをせず、自宅で長時間座ったまま仕事を続けるとがんを含めた病気のリスクが上がる可能性がある。
米国の大規模な疫学調査では、1日6時間を座って過ごす女性は、座る時間が3時間未満の女性に比べて、がんの発症が多いことが分かった。
とくに、乳がん、卵巣、多発性骨髄腫のリスクが高くなった。
さらに死亡リスクについてみると、肥満の程度や喫煙などのいくつかのリスクファクターを考慮しても1日6時間を座って過ごす人は、同3時間未満の人に比べて女性では34%、男性でも17%高いことが分かった。
座り過ぎると死亡リスクが高まる詳細なメカニズムはまだわかっていないが、運動不足など複数の要因が関係すると考えらる。
座る時間が長くても毎日わずかでも運動をすれば、死亡リスクは低くなる傾向があった。
ただ、長時間座っていることによるリスクの増加は明白だった。
週末にジムで汗を流せば、リスクを帳消しにできるというわけではなさそうだ。
4万人近い対象者を追跡したノルウェーの調査でも、8時間以上座っている男性は、8時間未満の人よりも、22%前立腺がんが多いことが分かっている。
40以上の観察研究のデータを総合的に分析した結果でも、長時間の座ったままの仕事は、大腸がん、子宮内膜がん、肺がんを増やすことが分かった。
オーストラリアなどの研究によるとコロナ以前から日本は、世界の中でも座っている時間が長い国として知られている。
新しい日常として定着しつつある在宅勤務にも、長時間座り続けて仕事をしない工夫が必要といえそうだ。
執筆
東京大学病院・中川恵一准教授
参考・引用一部改変
日経新聞・夕刊 2020.7.1