脳梗塞「血栓回収療法」が進化

脳梗塞血栓回収療法」が進化 最大で発症24時間まで  機器充実

脳梗塞を起こした直後に患者の脳の血管に小さな医療器具を入れて原因となっている血栓(を取り除く「脳血栓回収療法」が進化している。

発症から4時間半以内が治療可能とされる薬による治療に比べ、より長い時間が過ぎても対応できる。治療効果を高める取り組みも盛んになっている。

 

川崎市内の会社員Tさん(61)が体に異変を感じたのは、5月の連休最終日だった。

翌日からの出勤に備えて早めに寝ようと、妻に「おやすみ」と声をかけると「顔つきが連う」と心配された。

 

妻によると、一点を見つめ、左手が勤かせなくなっていたが「大丈夫だ」としきりに話していたという。

 

救急隊員の口から「脳梗塞」という言葉を聞いたことを覚えている。

ぼんやりした意識のなかで死を覚悟した。

 

市内の某大学病院に運び込まれ、血栓を除去する治療を受けた。

退院し、もとの暮らしに戻ることができた。

 

脳梗塞は年間約6万人が亡くなっている。

不整脈や心房細動によって血栓ができて脳血管に飛ぶものと、脳血管そのものに血栓ができるものがある。

後遺症を残さないためには、できるだけ旱くに血栓を除去して脳細胞のダメージを最小限にすることがカギになる。

 

今回Tさんが受けた治療は脳血栓回収療法。

発症から4時間半~24時間でCTやMRI検査で脳梗塞巣がまだ小さくて大きな血管が詰まっている場合、効果が期待できる。

足の付け根に切れ目を入れカテーテルという細い管を通して脳内の血管に届かせ、血栓を取り除く。

 

日本では2010年以降、らせん状のワイヤで血栓を絡め取るタイプや血栓を砕きながら吸引除去するタイプの医療機器が承認された。

その後、網目状のステント型タイプの二つの医療機器が承認された。

 

最近は、ステント型タイプと吸引除去タイプとを組み合わせて使うのが主流になっている。

ただ、すでに細胞が死んでしまった脳血管に血流を再開すると、出血し脳にさらに重大なダメージを与える恐れもある。

CTやMRI画像などによる事前の診断が重要だ。

 

治療効果高める取り組みも

急性脳梗塞への治療は治療薬を静脈点滴して血栓を溶かす「tPA静脈療法」が05年に承認された。

できるだけ早い効果を得るため、当初は発症後3時間以内の投与が必要とされた。

その後の臨床試験などの結果、発症後4時間半以内まで使用が可能となった。

血栓回収療法ができない小さな血管の詰まりには効果が期待できるのが利点だ。

 

しかし、tPAと偽薬とで3ヵ月後の結果を比較した海外の臨床試験では、tPA療法群ではその後の経過が良い人の割合は39%で、国内の試験の結果も同程度だった。

 

一方、脳血栓回収療法は、詰まった血管を再開通できた割合は8割以上、その後の経過が良い人の割合も5割以上という報告がある。

 

血栓回収療法はtPA療法に比べて劇的にその治療効果を改善させたが、血栓回収療法の対象になる大きな血管が詰まっている場合でも、tPAが完全に不要というエビデンスは出ていない。

ただtPAが使えない場合には、第一選択となることもある。

 

機器については治験中のものもあるが、この治療ができる医師・施設を増やして、発症から治療にかかる時間を短縮することも当面の目標だ。

 

発症から治療できる時間を延長できるような脳保護薬の開発や脳の修復のための再生治療の治験、リハビリを効率的に行うパワーアシストスーツの治験も行われている。

 

参考・引用一部改変

朝日新聞・朝刊 2020.8.5

 

<関連サイト>

脳梗塞の脳血栓回収療法の一例

https://aobazuku.wordpress.com/2020/08/05/脳梗塞の脳血栓回収療法の一例/