意識失い嘔吐、記憶あいまい 新型コロナ、脳まで侵入か
新型コロナウイルスは脳にも感染し、「深刻な脳障害を起こす恐れがある」という報告が相次ぐ。
髄膜炎や脳炎、意識障害のほか、記憶障害が出る人もおり、後遺症が心配される。脳の中で何が起きているのか。
3月、山梨県に住む20代の男性が新型コロナに感染した。
意識を失ったままけいれんし、嘔吐したまま床に横たわっていたところを家族が発見。
救急車で山梨大病院に運ばれた。
脳を覆う脳脊髄液をPCR検査で調べると、新型コロナ陽性だった。
頭蓋骨と脳の間の髄膜が炎症を起こす髄膜炎とみられ、脳のMRIでは記憶領域にあたる海馬に炎症があった。
退院後は日常生活に問題はないものの、直近1、2年間の記憶があいまいになったという。
新型コロナへの感染が関係していると疑われているが、明確な原因はわかっていない。
英国では、発熱や頭痛を訴えた後に意識障害を起こした59歳の女性が、入院後に新型コロナに感染していることがわかった。
MRIで脳の腫れや出血が確認され、急性壊死性脳症と診断された。
集中治療を受けたが、入院10日目に死亡したと報告されている。
*https://nn.neurology.org/content/7/5/e789
ドイツのチームは7月、新型コロナの神経症状について、92本の論文や報告を分析した。
感染者の20%に頭痛、7%にめまい、5%に意識障害があった。髄膜炎や脳炎、手足がまひするギラン・バレー症候群も数例ながら報告された。
*https://link.springer.com/article/10.1007/s00415-020-10067-3
7月に英国のチームが発表した論文でも、新型コロナに感染、あるいは感染の疑いのある43人のうち、10人にせん妄などの脳機能障害、12人に脳炎、8人に脳卒中の症状があった。
新型コロナウイルスはどのようなメカニズムで、脳に影響を与えるのか。
専門家は、ウイルスが嗅神経や血管を通って脳の細胞に直接感染する場合と、脳以外の臓器への感染が引き金になる2パターンが考えられると指摘する。
前者の場合、脳内で増えたウイルスが炎症を起こし、脳の中枢神経を傷つけ
る。
後者の場合、ほかの臓器への感染により「サイトカインストーム」と呼ばれ
る免疫の暴走が起き、全身に炎症が起き、脳の中枢神経にも影響を与える。
直接感染ではなく、サイトカインの方が説明が通る、と考える専門家も多い。脳脊髄液のPCR検査で陰性例が多いことや、髄液中のサイトカイン増加が
報告されているからだ。
一方で、直接感染をうかがわせる研究もある。米エール大学の岩崎明子教授らのチームは9月、ヒトのiPS細胞に由来する神経細胞でできた脳のミニ組織を使い、ウイルスが神経細胞に感染することを明らかにしたと論文で発表した。
さらに、ウイルスが感染した細胞内で増え、周囲の細胞から酸素を奪うことで、周囲の細胞を死滅させていることも明らかにした。
国内でも、慶応大の岡野栄之教授らが、iPS細胞から神経細胞をつくって新
型コロナの研究をしている。
iPS細胞を使うことで、新型コロナが神経にどう感染するかについて、体外で実験することができる。
ただし、現時点では脳への影響のメカニズムを明らかにするのは難しい。
脳への影響が分かるころには、すでにウイルスが全身に回っており、感
染経路が特定できない場合が多いからだ。
ただ、どんなメカニズムだとしても脳への影響は起こりうる。
できるだけ感染しないよう予防策を取ることが大事だ。
英文抄録
The emerging spectrum of COVID-19 neurology: clinical, radiological and laboratory findings
https://academic.oup.com/brain/article/143/10/3104/5868408
<関連サイト>
https://aobazuku.wordpress.com/2020/11/16/新型コロナウイルスが脳に影響を与えるメカニズ/