新型コロナ研究成果相次ぐ 体内侵入時、細胞と結合強く
新型コロナウイルス感染症の治療の難しさを克服する手がかりが見えてきた。ウイルスの侵入時の結合の強さや体内での増殖しやすさなどに関与する研究成果が相次ぐ。
欧州にみられるような爆発的患者急増(オーバーシュート)への警戒が各国で強まる中、流行の予測や治療薬開発を後押ししそうだ。
世界の感染者は累計で23万人超、死者も1万人に達するなど感染拡大が止まらない新型コロナ感染症。
高齢者の重症化防止や、水面下での感染者の小規模集団(クラスター)形成の防止に向け、ウイルスが人に感染するメカニズムの解明が克服への焦点のひとつだ。
新型コロナウイルスは、2003年に流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)と持っているゲノム情報の8割は同じ。
だが、無症状の人から感染し、軽症から重症までの症状にばらつきがあるなどSARSとは違う点も目立つ。
発生から約半年で終息したSARSに対し、新型コロナウイルスの収束時期は見えていない。
「長期間定着する可能性もあるやっかいなウイルス」(英インペリアル・カレッジ・ロンドン研究者)との見方も出ている。
具体的な研究として、クラスター形成の原因の一つとされる感染力の強さに関するメカニズムの解明につながりそうな成果が出てきた。
米テキサス大学などが米科学誌サイエンスに公表した成果によると、新型ウイルスの表面にある突起のたんぱく質が、人の細胞に侵入する時の入り口となるたんぱく質と結合する力が、SARSなどと比べて強いことがわかった。人から人へのうつしやすさや感染拡大のしやすさなどにかかわっている可能性があるという。
群馬大学の神谷亘教授は「ゲノム配列が似ていても、ウイルスのたんぱく質などが違えば、症状や免疫反応などに変化が出る可能性がある」と指摘する。
感染すると重症化する人が多いSARSに対し、症状にばらつきが出る謎に迫る成果もある。
メキシコ国家科学技術審議会は、無症状の感染者や患者のウイルスから、増殖に必要な遺伝子の一部がSARSと異なることを突き止めた。
人によっても微妙に異なる可能性もあり、どのような人が重症化し、軽症にとどまるのかを突き止める手がかりになる可能性があるという。
一方、新型コロナとSARSの酷似性もウイルスの構造から確実となり、治療薬開発への近道が見えている。
ウイルスの細胞への侵入経路は、新型コロナとSARSは共に「ACE2(アンジオテンシン変換酵素2)」を利用し、一致していることを米国立衛生研究所の研究グループが突き止め、英科学誌に発表した。
さらに、ウイルスが細胞の中で増えるときに最も重要なたんぱく質の立体構造を中国の上海科技大学などが解明し公開。
東京工業大学の関嶋政和准教授らによると、SARSのたんぱく質とよく似ているという。
SARSは発生から半年で終息したため、治療薬やワクチン開発が中断した。当時途中まで研究が進んでいた薬候補を臨床試験などにつなげれば、開発期間を短縮できる。すでにSARSの治療薬候補の一つだったカレトラは、国内の患者の治療のために試験的な投与が始まっている。
世界保健機関(WHO)がパンデミック(世界的な大流行)を宣言した新型コロナウイルスの感染拡大や流行は長期化するとの見方が強い。
謎が多いウイルスの正体解明は、治療薬開発の短縮化や長期的対策の立案まで網羅的な支援につながる。
論文、3カ月で2000本 中国多く
世界的に、新型コロナウイルスに関する研究はこの数カ月で急増している。世界保健機関(WHO)のまとめでは、関連する論文数は患者の発生からわずか約3カ月で2000本を超える。
国別で見ると、中国と米国の多さが目立ち、研究をけん引している。
米調査会社のクラリベイト・アナリティクスが、一定の基準で3月中旬までに収集した130本弱の新型コロナウイルスに関連する論文のうち、国別でみると中国が43%、米国が18%で両国で半分を超え、英国の8%、イタリアの7%を圧倒する。日本は1.5%だった。
このほか情報共有も異例の形で進む。
米医学誌の「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」や英医学誌の「ランセット」は新型コロナウイルスによる感染症に関連した論文の無料公開を開始。
学術誌出版大手のエルゼビアが関連する医療情報を集約した特設サイトを用意するなど、世界の学術界が協力した形で研究加速を下支えする。
資金面での研究支援も米中を中心に加速している。
米国は3月上旬にワクチンなどの研究開発費用として30億ドル以上を捻出することを決定。
中国国家自然科学基金委員会も新型コロナウイルスに関する基礎研究の助成開始を発表済みだ。
参考・引用一部改変
日経新聞・朝刊 2020.3.21
<関連サイト>
新型コロナウイルスが人の細胞に侵入するときの特徴