ワクチン不足対策に「低用量接種」  WHOも奨励

「低用量接種」研究に注目   WHOも奨励、ワクチン不足対策

世界で新型コロナウイルスワクチンの供給格差が広がる中、1回の接種の用量を半分などに減らして接種回数を増やす方法が注目されている。

過去には黄熱ワクチンの供給不足への対応として、アフリカや南米でワクチンを小分けして節約した例がある。

世界保健機関(WHO)はコロナワクチンでも「公衆衛生上有益な可能性がある」とし、研究を奨励している。

 

ワクチンは臨床試験(治験)で何通りかの用量を試験し、免疫反応や副作用などのバランスを考慮して標準の用量を決める。

しかし用量を減らしても免疫反応を十分に強化できる場合がある。

半分で効果が得られれば接種できる回数は2倍に増え、ワクチンを早く行き渡らせることができる。

 

コロナワクチンでも接種の用量を減らせる可能性がある。

米モデルナ製ワクチンは現在の標準用量の半分を2回接種する方法でも、抗体ができる反応の強さは同程度と報告されている。

米ラホヤ免疫学研究所のグループは7月、専門家の検証を受ける前の小規模な研究だが、標準の4分の1量の2回接種でウイルスへの感染と同程度の免疫反応を起こせるとの論文を発表した。

 

アストラゼネカ製では1回目に標準の約半分、2回目に標準用量を打った場合、標準2回分と同程度の免疫反応が起こり、発症予防効果90%との分析がある。

モデルナ製は1人当たりの用量を半分以下、アストラゼネカ製は約4分の3に節約できる可能性がある。

ファイザー製の用量を減らした場合などの効果や安全性を調べる研究も5月からベルギーで始まった。

 

ただ低用量接種の科学的根拠はまだ限られ、WHOは8月10日に暫定的な声明を出した。

公衆衛生上有益である可能性があるとしながらも「推奨するには十分な根拠がない」とし、標準用量と比べて遜色がないかを明らかにするなどの研究を奨励した。

 

少ない量を接種する戦略には先例がある。

黄熱病が流行してワクチンが不足したアンゴラコンゴ民主共和国では2016年、数百万人が標準量の5分の1にした接種を受けた。

WHOが推奨した方法だった。

17~18年にはブラジルで実施し、ポリオや狂犬病などのワクチンでも小分け接種の実用性が認められている。

 

コロナワクチンの供給格差は深刻だ。

英オックスフォード大の研究者らがつくる「アワー・ワールド・イン・データ」によると、1回以上接種した人の割合はアジアで45%、欧州や米州では55%だが、アフリカは5%台にとどまる。

アフリカはWHOが主導するワクチン供給の国際的な枠組み「COVAX(コバックス)」に頼る国が多いが、供給が遅れている。

 

一方で、接種で先行した米欧やイスラエルは3回目の追加接種(ブースター接種)を進めている。

高所得国がブースター接種で小康状態になれたとしても、低所得国で流行が続けば、新しい強力な変異ウイルスが広がる恐れもある。

中長期的な正常化には、自国優先ではない世界全体での流行抑制が欠かせない。

 

参考・引用一部改変

日経新聞・朝刊 2021.9.6