京大、ALS患者の病気の進行停止 iPS創薬で成果
京都大学iPS細胞研究所の井上治久教授らは9月30日、全身の筋肉が次第に衰えるALS(筋萎縮性側索硬化症)について、iPS細胞を使った創薬研究で見つけた治療薬候補を患者に投与する臨床試験(治験)で、進行を止める効果が一部の患者で出たと発表した。
投薬で病気の進行を止める効果は世界初という。
根本的な治療法をめざし、より大規模な治験をして詳しく調べる。
ALSは運動神経の障害で筋肉が徐々に衰える進行性の難病で、国内に約9千人の患者がいる。
個人差があるものの、発症から数年で人工呼吸器を装着したり亡くなったりする。
既存薬は病気の進行を数カ月遅らせる効果はあるが、根本的な治療法はない。
京大は患者のiPS細胞から病気の細胞を再現し、様々な薬剤を試して慢性骨髄性白血病の治療薬「ボスチニブ」をALSの治療薬候補とした。
2019年、安全性などを調べる第1相と呼ばれる初期の医師主導治験を始めた。20歳以上80歳未満の比較的軽症の12人の患者にボスチニブを投与した。
用量が多く肝機能障害が出て投薬を中止した3人を除く9人で効果を調べた。
1日に100~300ミリグラムを12週間投与した。
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「80歳未満」ということですが、高齢のALSの方がおみえになることに驚きます。
晩期発症ということなのか、進行が遅いタイプということなのでしょうか。
そういえば、偉大な物理学博士のスティーヴン・ホーキング氏は、ALSを21歳で発症し76歳で障害を閉じられました。
通常、成人はボスチニブとして1日1回500mgを食後経口服用する。なお、患者の状態により適宜増減するが、1日1回600mgまで増量できる。
投与期間中と終了後に、会話や食事、歩行などをもとにALSの重症度を評価する方法で調べると、9人中5人で病気の進行が3カ月止まった。
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残りの4人は進行のペースが変わらなかったという。
9例ともにALS自体は「20歳以上80歳未満の比較的軽症」ということですが、年齢による差があったのか、ALS自体がはたして単一の疾患概念なのかという疑問も湧いてきます。
薬剤の効果の有無から、さらにALSの分類が細分化され、疾患自体のメカニズムの(更なる)解明に寄与することも考えられます。
そもそもボスチニブが、治療候補の候補にあがったプロセスにも興味があります。
傾向を調べると、神経細胞が壊れた際に放出される物質が血液中に少ない患者で効果が出やすかった。
軽症の患者には薬が効きやすい可能性があるという。井上教授は「科学的にALSを制圧することが視野に入ったのではないか」と話す。
ただ今回の治験は対象の患者数が少なく、効果の検証に必要な偽薬を投与する患者群との比較がない。
井上教授は「科学的に有効性を示すには、第2相以降の治験が必要だ」と話す。
ボスチニブが効く仕組みの検証も進める計画だ。
iPS細胞を使う創薬研究では、慶応義塾大学が5月、パーキンソン病の治療薬を投与する治験でALSの進行を約7カ月遅らせる効果を確認したと発表している。
様々な治療薬候補の治験が進めば、ALSの根治法が見つかる可能性が高まると期待を集める。
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iPS細胞を活用することのメリットは、薬剤候補の探索ができることと、前臨床の段階で実際に患者さんの細胞で創薬コンセプトのPoCができるため、創薬プロセスの短期化と成功率向上に繋がる点が挙げられます。
今回の研究で、AIがどのように活用されたのかも知りたいところです。
いずれにしろ、患者数が少なく開発が難しかった希少疾病の治療薬の開発にとっては大きな福音です。
PoCとは
概念実証(Proof of concept、PoC)は、新たな概念やアイデアの実現可能性を示すために、簡単かつ不完全な実現化(または概要)を行うこと。
あるいは原理のデモンストレーションによって、ある概念や理論の実用化が可能であることを示すこと。
参考
筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者さんを対象とした ボスチニブ第1相試験のご報告 ~ALS進行停止を目指すiDReAM Study~
https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/pressrelease/news/211001-000000.html
ボスチニブ
http://www.interq.or.jp/ox/dwm/se/se42/se4291036.html
参考・引用一部改変
朝日新聞・朝刊 2021.10.1