iPS創薬、治験初の効果 ALS患者で確認

iPS創薬、治験初の効果 ALS患者で確認 慶大チーム

慶応大の研究チームは20日、難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)の人にパーキンソン病の薬を使うと、病気の進行を約7カ月遅らせる可能性があるとする治験の結果を発表した。

iPS細胞を使って発見した薬で、実際の患者で効果を確認した。

今後、追加の治験の必要性などを検討し、早めの承認申請をめざす。

 

患者のiPS細胞を薬の研究開発に生かす「iPS創薬」で見つけた薬が、治験で有効と確認できたのは、世界で初めてとなる。

 

この薬は、パーキンソン病の薬「ロピニロール塩酸塩」。

 

チームは、ALSの人のiPS細胞からつくった神経の細胞で、病気の状態を再現させることに成功。

 

さまざまな病気に使われる約1230種類の薬で効果を試し、この薬がALSに有効な可能性があるとして、2018年に治験を始めた。

 

治験には発症して5年以内で、多少の介助があれば日常生活が可能な43~79歳の20人が参加した。

最初の半年間は13人が薬を、7人が偽薬をのんだ。

その後の半年間は治験を継続できた17人全員が薬をのんだ。

 

その結果、薬を1年間続けてのんだ人では、一人で歩けなかったり、物ののみ込みが難しくなったりするなどの状態になるまでの日数の中央値は約50週と、偽薬から始めた人より195日長くなった。

副作用などの理由で途中で薬をやめた人はいなかった。

 

ALSは筋肉を動かす神経が障害を受け、全身の筋肉がやせていく進行性の難病。

細胞内に特定のたんぱく質が異常にたまることなどが原因とされる。

薬やリハビリで病気の進行を遅らせることはできるが、現時点で治す方法はない。

 

参考・引用一部改変

朝日新聞・朝刊 2021.5.21

 

<追記>

ALSの人は体内の神経や筋肉の細胞の機能が衰えている。

細胞を取り出して調べることは難しい。

患者のiPS細胞をもとにすれば神経や筋肉などの細胞を大量につくることができ、病気の状態を再現できる。

その細胞で何千種類の化合物の効果を調べれば、薬の候補を早く選ぶことができる。

 

すでに販売されている薬は安全性が確かめられている。

今回の研究のように、販売中の薬から探せば、動物実験に何年も費やす必要はなくなる。

 

「iPS創薬」で探した薬を使った治験は2017年以降、本格的に始まった。

慶応大ではALSだけでなく、難聴やめまいなどを引き起こすペンドレッド症候群でも進める。

京都大でもALSのほか、進行性骨化性線維異形成症や家族性アルツハイマーを対象に実施している。