糖を代謝する巨大な臓器「筋肉」の問題が全身に悪影響
肥満ではないのに糖の代謝が悪くなり、やせメタボとなっている人の体では、脂肪筋などが原因で、インスリン抵抗性となっている。
通常、食事でとった糖は、筋肉や肝臓など、糖をエネルギー源とする臓器に運ばれる。筋肉と肝臓がブドウ糖を取り込むときのスイッチ役となるのが、前出のインスリンというホルモンだ。
インスリンが正常に働いていれば、血糖値は一定に維持される。
ところが糖尿病患者では、インスリンの分泌量が減ったり効きが悪くなったりして、糖が十分に取り込まれず血糖値が上昇したままになる。
インスリンの効きが悪くなる主たる原因が、内臓脂肪。だから肥満の人は糖尿病になりやすい。これが、これまで知られてきた事実だ。
一方、「やせているのにインスリンの効きが悪い、やせメタボの体」では、脂肪筋が悪さをしているのではないかと考えられる。
現時点での仮説として、筋肉が脂肪筋になると糖代謝に悪影響を及ぼす、という考えがある。
体は、皮下脂肪や内臓脂肪にエネルギーを蓄えるが、それ以外の臓器でも、エネルギー源として脂肪が蓄積される。
脂肪組織以外の骨格筋や肝臓などの臓器にたまる脂肪を「異所性脂肪」と呼ぶが、その量が過剰になると、さまざまな障害を起こす。
もちろん、「脂肪筋」もこの異所性脂肪の一種だ。
食事で脂肪をとりすぎて、活動しない、つまりあまり歩かないような状態であると、脂肪がエネルギーに変わりにくくなる。
脂肪細胞にためきれずに余って漏れ出した脂肪が筋肉にたまった、あるいは使われずにたまったのが、脂肪筋だ。
脂肪筋では、脂肪が筋肉内で何らかの毒性をもたらし、糖を取り込むインスリンの効きを悪くすると考えられている。
糖が血中でだぶつき、やがて糖尿病やメタボの悪化につながっていく。
やせメタボは、肥満とは別個に起こる現象だ。
男性では、体脂肪率が20%を超えたあたりから脂肪が漏れ出るようになり、インスリンの効きが悪くなることが確認されている。
骨格筋は、全身を動かす臓器であるとともに、人体の中で糖をグリコーゲンとして蓄える最大のタンクでもある。
骨格筋は、体重の約50~60%を占める人体最大の臓器だが、この大きなタンクの調子が悪くなり、糖代謝がうまくいかなくなると、糖尿病になるだけでなく、動脈硬化や高血圧になることが明らかになってきている。
特別な装置で、脂肪筋を「すね」部分の筋肉で測定している研究者がいる。自分の筋肉が脂肪筋になっているかどうかを知りたくなるが、残念ながら脂肪筋は外側からはわからない。
すね部分の見た目や触り心地でも、判断できない、という。
そこで、目安にしたいのが以下のチェックリスト。
これまでの研究結果を総合し、「チェックが複数当てはまる人は、脂肪筋などが原因でインスリン抵抗性になっている可能性が高い」という。
<脂肪筋チェックリスト>
□ 血圧が高め
□ 中性脂肪値が高め
□ 血糖値が高め
□ 肝機能が悪い
□ 脂肪肝である
□ 歩く量が少ない(歩数1日5000歩以下)
□ 油ものが好き
□ 車を利用することが多い
3日間の油っこい食事と運動不足で脂肪筋が1.5倍増える
脂肪筋を作る原因となるのが「活動不足」と「高脂肪食」だ。
これまでは通勤などで歩いていたが、リモートワークでめっきり歩数が減った、食事内容も偏っている、という人は「このような生活がどのぐらい続くと脂肪筋に変わってしまうのか」についても知りたくなるはずだ。
実は、肥満していない若い男性を対象にした研究では、3日間脂っこいものを食べ、1日3000歩以下しか歩かない、という生活によって、脂肪筋が1.5倍に増え、インスリン感受性も低下してしまったという。
3日間の高脂肪食で脂肪筋が増え、インスリンの効きが悪くなった
50人の肥満していない男性(平均年齢23.3歳)に、3日間の普通食を、そのあと3日間の高脂肪食(炭水化物20%、脂質60%、たんぱく質20%)をとってもらい、その前後に脂肪筋量、骨格筋のインスリン感受性を測定した研究がある。
結果は、高脂肪食による反応が大きかった群では、脂肪筋量が約1.5倍増え、骨格筋のインスリン感受性が有意に低下した。
また、「どのような人で脂肪筋が増えやすいか」を確かめた研究では、週1回以上運動しておらず、かつ、あまり歩かない人は、脂肪筋が増えやすいことがわかった。
普段からしっかり活動をしている人では、脂肪筋が作られにくいと言える。
以上のことから、在宅のリモートワークで歩かない生活は、危ないことがわかる。
リモートワークが続いても、活動を減らさずに、できるだけ歩くように心がけたい。
参考・引用一部改変
日経Gooday 2021.4.2
<まとめ>
筋肉の細胞の中に脂肪がたまると「脂肪筋」になる。
骨格筋は、食事でとった糖をグリコーゲンとして蓄えるタンク。
ところが脂肪筋では、たまった脂肪が毒性を発揮し、インスリンを効きにくくする。
このため、糖をスムーズに取り込めなくなり、糖尿病が進む。これが、やせていても「メタボ」になる仕組みだ。