あなたがやせない“理由”教えます(下)

ちょっとした生活習慣が運命の分かれ道

そんなに大量に食べているわけでもないし、カロリーや脂質のこともちょっとは意識している。
なのに自分ばかりがなぜ太ってしまう――。
そんな悩みを抱えている人の問題はどこにあるのでしょうか。
「敵」はちょっとした生活習慣にありました。


太っている人はNEAT(日常的な生活運動)が足りない
動くことが少なくなっている現代の生活スタイルにこそ問題がある。

肥満の人の方が、肥満でない人に比べて日常生活で座っている時間が長く、立つ・歩く時間が短いという報告がある。

肥満になるかどうか、やせるか、やせないかの大きな差がここにある。

1日のうちに私たちの体が消費するエネルギー量の60~70%を占めるのが基礎代謝量で、残ったうち食事後の熱産生以外が体を動かして消費する分。
これには運動によるものと、運動とはいえない日常的な身体活動(NEAT=nonexercise activity hermogenesis)によるものがある。

そのNEATが多いと肥満の確率が少ない。
つまり日常生活の中での動きを多くすることこそ、ダイエットに効果的だというのだ。

特にデスクワークの多い人は意識して動きたい。
ずっとパソコンの前に座り続けたり、誰かに物を取ってもらったり、横着をしているとその分、太りやすくなる。

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(この記事のイラスト:まえかわひろし)


食べたら筋肉を動かす」という意識が足りない
ズバリ、筋肉量の低下。
それがやせない理由かもしれない。
年とともに筋肉量はどんどん減っている。
20代を100%とすると、40代の今は80%に落ちているという計算だ。

1日のうちに私たちの体が消費するエネルギー量の大半を占める基礎代謝量は、何もせず安静にした状態で呼吸や体温維持などで体が消費するエネルギー量のこと。
この量は、筋肉と大いに関係がある。というのも最も消費する部位が筋肉だからだ。
次いで、肝臓や脳で消費される。

血液中の糖はインスリンによって、約70%が骨格筋に取りこまれる。
血液中に糖があふれた状態になる糖尿病は、いいかえれば、筋肉の代謝疾患といえる。

運動をすると筋肉の細胞が糖を取りこむ。
でも、使う筋肉そのものの量が少なければ、取りこむ糖の量も少なくなるため、血液中にあふれた糖の行き場がなくなるというワケだ。
筋肉を増やして代謝させる、そんな気遣いが必要だったのだ。
筋肉は鍛えれば増える。


ウエアをそろえてやる気満々、バリバリ本気モードになる
ダイエットが続かない最大の理由は、いきなりハードな運動をしようとすること。
男性には比較的多い。

決心するまでに時間はかかるが、やると決めたらシューズを買い、ウエアをそろえ、ジムを探したり、ランニングコースを下見したり……。
今度こそ本気だぞ!の証しなのか、後戻りできないようにするためなのか。

その行為こそが挫折の始まり。

確かに、強度の高い運動のほうが筋肉は鍛えられるが、絶対に続かない。
ダイエットや健康目的なら、それでは意味がない。
しかも、トレーニングを始めると、トレーニング以外の身体活動が低下するという実験データも報告されている。

ハードルはいきなり高く上げずに、無理なく毎日の生活の活動量を増やす。
毎日の歩く歩数を増やすだけでいい。
できるようになったら、歩数や距離を伸ばしていく。
そんな簡単なことを続けるのが上手にやせるコツ。

毎日10分長く歩くようにするだけで、血圧やコレステロール中性脂肪の低下など、様々な不調も改善。体重や体脂肪も徐々に減少する。


部分的に鍛えるより全身運動を、ダンベルよりも階段が効く?
ジムに通い始めたはいいが、マシンが相手だとついムキになってしまう。
今より運動量を増やすなら、まずは全身運動を心がけるといいという。

特に下半身を中心に運動するとよい。
脚というのは非常に重要な部位で、太ももの筋肉量が細い中高年は、心血管疾患などのリスクが高まるという研究もある。

脚に負荷をかける運動で、お薦めは、「階段上り」。
実は、2kgのダンベルを胸の前で700回上げ下げしたときの運動量と、体重56kgの人が階段で3階(10m)まで上がるときの運動量は同じだという。
しかも、階段上りなら、自分の体重が負荷となり、太ももが鍛えられるというわけだ。


これはダメ、食べたら太るという抑制がさらに肥満を加速させる
「やせない理由は、脳にある」という考え方もある。
現代社会は、ストレスが多く、それこそが食欲中枢や自律神経を乱れさせ、過食を引き起こすという考え方だ。

食欲や睡眠などをつかさどる脳を喜ばせればいい。
自分が心地良くなるのはどうすればいいか、自分にとって幸せなことを考える、それだけでいい。

特に1日の生活で食事は重要なもの。
これは食べちゃいけない、これは太るもと、なんて抑制すること自体がストレスになる。
そこで、治療に用いられのが「快食療法」だ。

いくつかのルールはあるが、とにかく1日の終わりの夕食には大好きなものを食べる。
いかに脳を喜ばすか、が重要だからだ。
カロリーがとか油がとか思ってはダメ。
食べたいものを喜んで食べる。

そして、食事が終わったら「あ~、おいしかった!」と声に出すこと。
声に出すと音の刺激で脳が活性化され、幸福感が高まる。

この「快食療法」を続けると、自然に食べる量が調整され、過食にはならない。
食事制限をしてもなかなかやせない人は、試してみる価値がある。


罪悪感を持たずに、疲れているという自覚を持つ
自分自身が最近疲れ気味だと感じたら、一度、食べているものをノートに書き出してみてはどうだろう。「そんなに食べてるつもりはない」という人でも、疲れているときには、知らず知らずのうちに食べ過ぎる傾向にあるようだ。

ストレスを受けると脳が過食と偏食の指令を出す。
実際に、大阪市立大学医学研究科抗疲労チームの調査でも、疲れているという人は、揚げ物や油物を多くとったり、市販の弁当の頻度が高まったり、食欲が増減するなどの特徴がみられたという。

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20代から70代までの男性に最近1カ月でストレスを感じたことがあるかと聞いた結果が上のグラフ。
20~40代は7割があると答えているが、「大いにある」と答えたのは、40代男性が最も多かった。
(平成20年度・厚生労働省『国民健康・栄養調査』より) 

1カ月のうちにストレスを感じたことがあるかという問いに、「多少ある」「大いにある」と答えた人は、40代では7割に上る。
疲れやストレスを自覚することも重要だ。
(ライター 中能泉)

出典 日経新聞・Web刊 2010.12.25
版権 日経新聞




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