のどの痛み 本当に風邪か

急性喉頭蓋炎、咽頭がんの可能性も? のどの痛み 本当に風邪か

ひりひりとのどが痛むのは風邪の代表的な症状。
ただ、痛みだけがいつまでも治らないときや、食べ物が飲み込みにくいなどの症状を伴う場合は、別の病気の可能性もある。
放っておくと命に関わる場合もあるので、「風邪だろう」と決めつけず、一度、専門医に診てもらおう。

都内在住の主婦Aさん(48)は3年前の冬のある日、のどの痛みや熱っぽさ、体のだるさを感じた。
つばを飲み込むだけでものどはひりひりと痛い。
かかりつけの内科を受診したところ、「風邪」と診断され、風邪薬を処方された。


突然呼吸困難に
薬を飲んで体のだるさなどは数日で治ったが、のどの痛みだけがなかなか治らない。
「食べ物が飲み込みにくい」「声が少しかすれる」といった症状も出始めた。
それでもAさんは、風邪が長引いているだけと思い、のどスプレーなどで対処していた。
夜に突然、徐々に呼吸が苦しくなって、家の中で倒れてしまった。

救急車で病院に運ばれたAさんの病名は「急性喉頭蓋炎」。
喉頭蓋は気管の上にある蓋のような器官で、食べ物を飲み込むときに間違って気管に入らないように気管をふさぐ役割を担う。
急性喉頭蓋炎はこの喉頭蓋に細菌やインフルエンザウイルスなどが感染して大きく腫れ上がり、空気の通り道を塞いでしまう。

幸いAさんは気管切開手術で一命をとりとめたが、最悪の場合は窒息死に至ることもある。
年間1万人以上が発症するともいわれている。

杏林大学医学部付属病院の甲能直幸病院長は「はじめの症状は風邪と見分けがつきにくい。急激に進行することもある危険な病気だが、認知度がまだまだ低い」と指摘する。
中にはのどの痛みを訴え始めてから数時間で呼吸困難に陥る場合もあるという。
かつては子供に多い病気といわれたが、最近は大人でも発症者が増えている。

急性喉頭蓋炎の特徴はのどの痛みに加え、食べ物を飲み込むときに痛みが増す。
また、ゼーゼーと息苦しくなったり、声がかれたりするといった症状も出る。

耳鼻咽喉科内視鏡検査を受ければ比較的すぐに見つかるが、口の中をライトで照らすだけの検査では見つかりにくく、内科では見過ごしてしまう場合もある。

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乾燥防止が重要
予防法は風邪と共通する。
のどの粘膜の乾燥を防ぐのが一番大事だ。
特に冬場は、風邪をひいていなくてもマスクをしてのどを守るとよい。
部屋では加湿器を使うなどしてしっかり備えたい。

もし、のどの痛みが数週間から数カ月単位で続く場合には、咽頭がんの可能性も否定はできない。
飲酒やたばこが主な原因になるがんで、ここ数年は患者数が増加傾向にある。
のどの痛みは初期症状で、ものがつかえるような異物感を伴う痛みが特徴だ。

もっとも、「初期の段階では、自分ではなかなか気づきにくい」(東京大学医学部付属病院の二藤隆春講師)。
咽頭の腫瘍が大きくなってくると、食べ物が飲み込みにくくなり、声がかれるなどの症状も出てくる。
耳の神経が侵されることで、飲み込んだときに耳が痛くなる症状が出る場合もある。
こうした段階になって初めて気づく患者が多い。

二藤講師は「のどの痛みはありふれた症状だけに、のどスプレーやトローチなどで対処しがち。軽くみて発見が遅れることも多い」と指摘する。

ほかにも、ウイルス感染が原因で甲状腺が腫れる「亜急性甲状腺炎」や、鼻の奥からのどにかけて炎症が起こる「上咽頭炎」も、のどの痛みを伴う病気の代表例だ。
また、ストレスや食生活の乱れが原因で胃酸が逆流し、のどの奥や食道が炎症を起こしている時も、のどにひりひりとした痛みを覚える。

急性喉頭蓋炎や咽頭がんと違い、こうした病気は命に関わるほど重症化することはめったにない。
ただ、「正しい診断を受けて適切に処置しないと、症状がなかなか治らない」(日本医科大学付属病院の三枝英人講師)。
口の中を簡単に見るだけの診察では細かい判別がしづらく、見過ごしてしまう場合もあるという。
(柏原康宏)
出典 日経新聞・Web刊 2010.12.24(一部改変)
版権 日経新聞

<私的コメント>
耳鼻科領域には救急疾患はないように勘違いする方も多いのではないでしょうか。
しかし、実際には結構緊急性のある疾患があるのです。
問題は夜間、耳鼻科の当直のある病院は多くないことです。
幸い、当院の近くには大学病院があります。
大学病院のメリットは各科当直といって、すべての科が当直体制を行っています。
入院患者さんのケアが主目的ですが、緊急の場合は外来も診察して貰える筈です。
一方、大病院でも一般病院では内科・外科以外の医師は当直体制をとっていないのが現実です。

さて、今回とりあげた急性喉頭蓋炎は耳鼻科の救急疾患の代表です。
その他の疾患としては
①息苦しい場合・・・気道異物、アレルギーによる喉頭浮腫、気道(喉頭、気管、気管支)異物
②魚の骨などが刺さった・・・咽頭異物、食道異物
③外鼻骨折、鼻骨骨折
④鼻・耳内異物(おもちゃ・昆虫など)
⑤大量の鼻出血
⑥急に耳が聞こえにくくなった・・・突発性難聴
⑦耳かきなどでつついた・・・外耳道損傷、鼓膜穿孔
⑧耳が痛い・・・急性中耳炎
⑨のどが痛くて食べられない・・・扁桃周囲膿瘍
などがあります。


<番外編>

繰り返しできる口内炎、対処法は?

 
口内炎が繰り返しできて困っています。内科で検査をしてもらいましたが、とくに異常なしだそうです。
抗炎症薬をもらって塗っていますが、かんばしくありません。
漢方によい薬はありますか。

 
口内炎は全身的な病気の症状として出ることもありますが、多くは消化器症状やストレス関連で起きます。
口内炎の治療で最もよく使うのが甘草瀉心湯(かんぞうしゃしんとう)です。

半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)の甘草の量を増やした処方で、甘草には抗炎症作用や鎮痛作用があります。
甘草の独特の甘みが口内炎の痛みをすみやかに鎮静化します。
ストレスや不規則な食生活、睡眠リズムの障害とともに、胃腸の具合が悪くなるとできるタイプの口内炎にはとてもよく効きます。

胃腸は丈夫で、むしろ便秘しやすく、イライラして、顔がのぼせ、憤懣(ふんまん)やるかたない、という時にできるタイプには黄連解毒湯(おうれんげどくとう)がよいでしょう。

逆に華奢(きゃしゃ)な体形で、ものごとに驚きやすく、内向的なタイプの人にできる口内炎には香蘇散(こうそさん)を用います。

いずれも、黄柏(おうばく)というキハダの樹皮の生薬末(粉)を水に溶いて、口にしばらく含んでいるとさらに効果があります。
北里大学東洋医学総合研究所所長 花輪壽彦)

出典 日経新聞・Web刊 2010.12.27(一部改変)
版権 日経新聞



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