オミクロン株、なぜ警戒

オミクロン株、なぜ警戒 大流行した変異株より多くの変異

感染力が強いのか。ワクチンが効くのか。まだよくわからない段階で、世界中が新型コロナウイルスのオミクロン株に警戒を強めている。そのわけは、過去に大流行したどの変異株よりも、圧倒的に多くの変異を持っているところにある。

 

「これまでに公開された何百万もの新型コロナのゲノム(全遺伝情報)とは大きく異なり、最も近い親戚を特定するのは難しい」

 

オミクロン株について、新型コロナのゲノムを分析してきたスイス・ベルン大のエマ・ホドクロフト氏は米科学誌サイエンスでこう指摘した。

アルファ株やデルタ株から派生したものとは明らかに違うという。

 

新型コロナの表面には「スパイクたんぱく質」が何本も突き出ている。

このスパイクがヒトの細胞の表面にくっつき、細胞内に侵入する。

 

彼のグループが運営するサイト「Co variants」によると、オミクロン株のスパイクの変異は36ヵ所ある。

アルファ株は10ヵ所、デルタ株は9ヵ所。

変異の多さは圧倒的だ。

しかも、ほかの変異株で感染力を高めていると指

摘されてきた変異を複数、持っている。

 

例えば、「N501Y」。

これは、スパイクを構成する約1300個のアミノ酸のうち、501番目のN(ア

スパラギン)がY(チロシン)に変わったもので、アルファ株や夕株、ガン

マ株にもある。

オミクロン株は他にも八つ、アルファ株やデルタ株などの「懸念される変異株(VOC)」と同じ変異を持つ。

 

オミクロン株は、いろいろな変異株が持っている変異の(ウイルスにとっての)「いいとこ取り」をしているようなウイルスだ。

性質はまだ明らかになってはいないが、楽観はできない。

 

ただし、ウイルスの変異についての一般論としては、変異の数が多くても、ウイルスの広がりやすさや重症化のしやすさといった人間に不都合な変異な

のかは、すぐにはわからない。

ウイルスにとって不都合な変異も起こりうる。

警戒はしつつも、過度に恐れるのではなく慎重に見ていく必要がある。

 

ワクチン・抗体カクテル療法 効果減の恐れ

一方、ワクチンの効果が弱まる恐れがある。

 

国内で使われている新型コロナのワクチンはスパイクを標的にする。

接種すると、体内でスパイクがつくられて、免疫の働きで異吻と認識し、スパイクにくっつく抗体をつくる。

いざ本物のウイルスがやってくれば、抗体はスパイクにくっついて、ウイルスが細胞に侵入するのを防ぐ。

 

阪大微研の研究グループは、デルタ株のスパイクに4種類の変異を加え、ファイザー製ワクチンを接種した人の中和抗体を調べた。

すると、感染を防ぐ効果が大幅に落ちることがわかった。

オミクロン株のスパイクの中和抗体がくっつく部分には、この実験で使ったものより、多数の変異がある。

 

このため、同研究グループは「ワクチンの効果が落ちる可能性がある。同じ理由で、抗体カクテル療法の効果も落ちる可能性がある」と指摘する。

コメント

「ワクチンの効果が落ちる」ということですが、効果を感染予防効果、感染拡大抑止効果、再感染(ブレークスルー)防止効果、治療効果への影響、死亡を含めた重症化抑制効果などに分けて説明しないとミスリードの原因となります。

さらには「抗体カクテル療法の効果低下」の可能性は、今回の研究からはどうやって導き出せるのでしょうか。

 

南アの研究グループからは、一度感染した人が再び感染するリスクが、ベータ株やデルタ株よりも大幅に高いとの分析結果が報告されている。

ただし、体内の免疫は抗体だけで働くわけではない。

ウイルスに感染した細胞を直接攻撃する免疫細胞など、ほかの働きも大きく作用する。

感染やワクチンの効果が全くなくなるわけではなく、重症化を防ぐ可能性はある。

 

オミクロン株について、世界保健機関(WHO)は11月30日、感染力が上がっている直接的な証拠はまだないものの、再感染のリスクが高まっている可能性があると評価している。

英国の健康安全保障庁は今月3日、少なくともいま流行しているデルタ株と同等の感染力を持つ、と評価した。

 

参考・引用一部改変

朝日新聞・朝刊 2021.12.8