サル痘、日本の備えに懸念

サル痘、日本の備えに懸念 検査1カ所のみで薬も未承認
天然痘に似た症状が出る「サル痘」が海外で拡大している。
海外との往来が戻りつつある日本も備えが必要だ。
検査できるのは国内1カ所で、備蓄ワクチンの活用にも懸念が残る。
大半が軽症とされ世界保健機関(WHO)も「一般市民のリスクは低い」と評価する。
過度に恐れる段階ではないものの新型コロナウイルス禍で対応が遅れた健康危機管理の反省を踏まえた準備が欠かせない。

WHOの集計では、1日までに欧州、北・南米、中東など30カ国から550人以上の感染が報告されている。
死亡例はない。日本では狂犬病などと同じ「4類感染症」で、集計を始めた2003年以降、報告はない。

厚生労働省は5月20日、疑わしい例があれば報告するよう通知を出し、6月1日には指定医療機関に入院体制の確保を求めた。
それでも備えが万全とは言いがたい。

サル痘はPCR検査で調べる。
現状、国内で検査可能なのは国立感染症研究所(東京)に限られる。
空港などで疑わしい患者が見つかっても、検体を感染研に運ぶ必要があり、結果判明まで数日かかる可能性がある。
都道府県で検査できるように感染研などが専用試薬の準備を急いでいる。
ただ検査体制の整備にはまだ時間がかかる。

WHOは天然痘ワクチンがサル痘にも約85%の予防効果があると説明し、米国、英国などがサル痘患者の接触者らに接種する方針を決めている。

日本もバイオテロ対策として国産の天然痘ワクチンを備蓄している。
危機管理の観点から確保量などは非公表だ。
天然痘用として薬事承認されており、通常はサル痘には使えない。
有事には臨床研究の一環として打つことが可能とはいえ、例外的な対応となる。

感染後の接種でも発症や重症化を抑え、周囲の感染リスクを減らせる。
疾病対策センター(CDC)や英保健安全局は患者との接触から4日以内、遅くとも14日以内の接種を勧める。
スピード勝負の局面で、例外対応が壁になる恐れもある。

接触して感染したリスクのある人や医療従事者に打つ「包囲接種(リング接種)」が有効とされ、広く一般に接種を呼びかけることは想定していない。
岸田文雄首相は5月30日の参院予算委員会で「天然痘ワクチンの生産・備蓄を進めている」と述べた。
厚労省は詳しい生産状況を明かしておらず、増産などが可能なのかは不明だ。
治療薬の確保でも遅れがある。
米国は18年に天然痘用の薬を承認し確保済みだ。
欧州も天然痘だけでなくサル痘にも使えるように承認している。
日本は未承認で、厚労省は海外からの緊急調達も検討している。
天然痘テロ対策の遅れはサル痘対応にも影響しかねない。

天然痘は1980年にWHOが根絶を宣言し、新たな感染者がいない。
ワクチンや治療薬は動物実験で効果を確認し、人への投与例は限られる。
安全性の確認も含め、国内で使う場合、手続きに一定の時間はかかる。

サル痘は発熱や頭痛、リンパ節の腫れといった症状が数日続いた後に発疹が出る。
多くは数週間で自然に治るという。
飛沫や体液、発疹への接触を介して人に感染する可能性がある。
潜伏期間は1~2週間程度とみられる。
今後、アフリカ地域以外にもウイルスが定着する恐れもある。
WHOはこれまでに感染が確認された特定のコミュニティーに限らず、感染者と一定以上の接触があれば誰でも感染する可能性があるとして、監視体制を広げるよう求めている。

参考・引用一部改変
日経新聞・朝刊 2022.6.5