不眠と飲酒

最初は眠りに誘い、後には不眠を起こすアルコール

睡眠薬代わりからアルコール依存症
誰にでもアルコールを飲んだ方なら、飲酒後に眠くなったり、よく眠れた経験
があると思います。
眠れないからと睡眠薬の代用としてアルコールを使用した経験も多いのでは
ないでしょうか。

そのことを契機に、睡眠薬としてアルコールを飲んでその内に、アルコール
依存症になった方も少なくありません。
睡眠薬よりいいだろう」という言い訳ができるからです。

アルコールの催眠作用について
アルコールを飲むとどうして眠くなるのでしょうか。
アルコールは消化管から吸収され、その一部が脳に達し、、人を覚醒させる
働きのある脳幹網様体賦活系に働きます。
アルコールはこの脳幹網様体賦活系を抑制します。
その結果眠くなり、これがアルコールの催眠作用と呼ばれるものです。
 
体は眠っているが脳は比較的活発に活動していて眠りが浅く、夢とも関係の
深い「レム睡眠」は飲酒の量によってその出現が異なります。
一般的に飲酒後の睡眠では、しばらくの間、レム睡眠が抑制されて出なく
なります。
この結果、頻繁に夢を見るようになります。
少量であれば睡眠の前半は出現率が低くなり、後半はかえって多くなります。
これは、アルコールの効果が切れる睡眠の後半になると前半の反動でレム
睡眠が集中するためです。

多く飲むとレム睡眠はアルコールによって抑制されます。
このように、アルコールを飲むことによって、単に眠りやすいというだけで
なく、睡眠の質が変わってしまうのです。

レム睡眠」は通常、90分周期で繰り返しています。
一方、「レム睡眠」でない時間帯は「ノンレム睡眠」といい、脳が休んで
いて眠りの深い状態です。

飲酒に頼って眠っている時の脳波は、睡眠ではなく、意識障害(意識喪失)の
状態になっているという専門家さえいます。

飲み続けると不眠の出現
以上のことでおわかりいただけたと思いますが、寝酒は熟睡を妨げるだけで
なく、かえって不眠を起こしてしまいます。
寝酒を飲んだ人が夜中に目覚める割合は、男女ともに飲まない人の1.2倍強
というデータもあります。
男性に限った場合には朝早く目覚める割合は、1.4倍ということです。
典型的な不眠の症状が寝酒を飲むとかえって増えているのです。
また、いびきが多くなったりひどくなる結果、睡眠時の無呼吸が多くなり
ます。
このように二次的な睡眠障害の要因ともなります。

アルコールを少量でも毎日、睡眠薬代わりに飲んでいるとどうなるでしょう
か。
人の体は、アルコールによる脳の抑制が続くと、何とかしてその抑制を少
なくするように働きます。
それが耐性の増加という現象です。
この耐性が認められるようになったとき、風邪をひいたり、職場の当直で
あったりなど、何らかの理由で飲酒できないことが発生することがあります。
そうしますと、日頃はアルコールによって脳幹網様体賦活系を抑制していた
ものが働くなります。
その時、一過性の不眠が数日間にわたって認められます。
もちろん、不眠の程度は飲酒量が多いほどひどくなります。
このような不眠が出現するようになった場合、悪夢が出たりします。
 
では、飲み続ければ不眠を回避できるかというと、残念ながら耐性という
現象が出現するかぎり、以前より飲酒量を増さなければ不眠が出現します。
量を増やせばしばらくは眠れますが、耐性が出現して不眠が出現します。
このように、アルコールの増量と、不眠のイタチゴッコとなり、飲んでいて
もいつも不眠症という事態が発生します。
この時点では飲酒が、睡眠薬の役割を果たせなくなるのです。
 
アルコール依存症になると、この不眠の程度がさらにひどくなり、深い睡眠
にほとんど入れなくなり、夜中に何回も目を覚ます中途覚醒が多くなります。

以下はアルコール依存症での不眠の話です。

一睡もできない振戦せん妄
アルコール依存症が進行すると、一日中飲み続けたり、飲み過ぎのため苦
しく飲めないなどで、飲酒が中断した後、離脱症状(禁断症状)が出現
します。
2~3日ほど眠れない夜が続いた後、離脱症状としての振戦せん妄を認める人
がいます。
振戦せん妄が出現すると、自分のいる場所や時間もあいまいとなり、虫などの
小動物が見えたりして、一生懸命それをとろうとしたり、突然興奮したり
します。

断酒継続中の睡眠
断酒を誓ってアルコールを断っても、すぐには良い睡眠はとれません。
断酒して数週間後の睡眠を調べた結果では、深い睡眠の出現率が低く、眠り
が浅く、目覚めやすいという結果がでています。
この睡眠障害の程度と、大脳皮質の萎縮の程度と関連するとも言われており、
アルコールによって脳がこわされる時に、睡眠を調節している機構も障害を
受けるようです。

アルコール依存症者の不眠に対する治療
アルコール依存症者には不眠はつきものです。
特に、急に断酒したり節酒をした後には不眠が生じます。
 
この場合の治療は、ベンゾジアゼピン系の睡眠導入剤を使用し、睡眠を
とってもらうようにします。
安定して睡眠がとれるようになった後、短時間型の睡眠導入剤が使用されて
おれば、長時間型睡眠導入剤に切り替え、少しずつ睡眠導入剤を減らして
いきます。
これは、アルコール摂取をやめたり睡眠導入剤の切り替えに伴う不快さを
できるだけ少なくするためです。


このように就寝前の飲酒は習慣性飲酒に結びつくことが多いために注意が
必要です。
食事と一緒でも眠る直前となると寝酒と同じことになってしまいます。
晩酌といってもできれば床につく2時間くらい前には飲酒を終わる努力が
必要です。

寝酒が習慣になっている人は、不眠症の予備軍ともいえるのです。

<参考および引用サイト>
不眠とアルコールについて
http://www.nsknet.or.jp/~hy-comp/alcoABC/sleep.html

<引用記事>
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出典 日経新聞・朝刊 2009.6.14
版権 日経新聞

<関連サイト>
アルコールと睡眠の関係
http://stress-labo.com/suimin_aruko-ru.htm