食物アレルギー治療

『食べる権利』大切に

「アイスをひと口食べたら、のどが痛いと言っていたけど、あとは平気でした」

牛乳アレルギーの6歳の娘の経過をお母さんが報告した。
治療で牛乳を毎日少しずつ飲んでいるが、異常はないという。
A医師は笑顔でうなずいた。
「それで大丈夫ならいいね。乳製品もだんだん食べていきましょう」

「食べること自体への恐怖を取り除いてあげたい」との信念で、食物アレルギーの子どもとその親を支えている。

大学を卒業後、最初に赴任した病院でアレルギー外来を担当した。

当時、食物アレルギーの医学的見解ははっきりしておらず、アトピー性皮膚炎と食物アレルギーが混同されてもいた。
リスクのある食べ物をひたすら除去する治療方針だったが、除去しても湿疹が治らない子もいた。
専門書なども少なかった。
それでも患者は詰め掛け、なんとかしたいと情熱を注ぐようになった。

2001年に新設されたBセンターのアレルギー科医長に就任。
不安な気持ちでいっぱいのお母さんの話をじっくり聞き、状態や治療の目安などを丁寧に説明する。
「お母さんたちに医学的に問題点を整理して説明してあげるとほっとして次に前向きに頑張れるんです」

「食べることは子どもたちの一番基本的な権利」という思いから、「経口負荷試験」を重視する。
激しい症状が起きても対応できる体制で、アレルギーのある食べ物を実際に食べて反応を調べる。
血液検査でアレルギー値が高くとも症状が出なければ除去する必要はない。
「念のためにと安易に除去するのは医療の力不足」ときっぱり。
同科では年間800件の負荷試験を行う。

医師になってすぐ患者家族らに誘われて続ける市民活動で、患者や親たちの日々の大変さを「ゼロから学ばせてもらった」という。
「この病気は周囲の理解が不可欠。病院でアドバイスするだけでは患者は守られない」。
NPO法人アレルギーネットワークなどの副理事長を務め、給食時の対応の手引作成なども積極的にかかわる。

真に目指すのは「食べること」。
4月から、アレルギーが出る食べ物を入院して集中的に食べる免疫療法にも取り組み始めた。
「子どもたちはやっぱり皆と同じ物を食べたいんです。彼らが一番頑張っている。食べるなと指示したからには、食べていいというまで責任があると思う」。
科学的に成果を出すのが使命と考えている。 (野村由美子)

出典 中日新聞・朝刊 2010.9.7(一部改変)
版権 中日新聞社




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