コレステロール基準値論争

患者無視のコレステロール基準値論争はいつまで続く?

コレステロール値を巡って2つの学会が対立、基準値論争がしばらく続きそうな気配です。
コレステロール高めが長生き」とのガイドライン(指針)をまとめた日本脂質栄養学会に対して、日本動脈硬化学会が「科学的論拠なし」と批判しています。
日本医師会や日本医学会も同じ見解です。

現行の判断基準を覆す日本脂質栄養学会(JSLN)の見解に、現在、コレステロールを低下させるスタチン系薬剤(例えばクレストール錠やリピトール錠など)を服用している患者としてはどう対応すればいいのでしょうか。
「少しくらい高くてもいいんだ」として、薬を処方されていた人が服薬をやめるかもしれません。
生化学検査値の臨床的評価が揺らげば、患者にとって明らかに不安です。
学問的な意見の対立は、学会で戦わしていただくとして、現行と相反する「長寿のためのコレステロールガイドライン」が学会独自とはいえ、一人歩きするのは患者無視以外のなにものでもありません。
新たな見解を示す場合、有識者や専門家同士で十分討議し、学会等でコンセンサスを得てから発表するのが常道です。
ところが、今回は対立の構図を打ち出しました。

メタボリックシンドロームの域にいる人にとって、総コレステロール値と共に、LDL(悪玉)コレステロール値は気になる指標です。
ところが、医学的なお墨付きを与えるはずの専門家集団間で基準値を巡って異論を展開しているのです。現在の基準では、LDLコレステロールが140mg/dl以上かHDL(善玉コレステロール)が40mg/dl未満、もしくは中性脂肪が150mg/dl以上だと高脂血症と診断され、メタボ健診の基準となっています。

ところが、日本脂質栄養学会は、「長寿のためのコレステロールガイドライン」をまとめ、発表しました。
「総コレステロール値あるいはLDL-コレステロール値が高いと、日本では総死亡率が低下する。つまり、【総コレステロール値が高いほうが長生き】【現在の基準は製薬メーカー主導の基準】【今まで常識であったコレステロール害悪説を考え直すべき】(日本脂質栄養学会 学会誌Vol.19, No.2より)であると指摘しています。

これに対して日本動脈硬化学会は、「科学的根拠なく、必要な患者の治療を否定するようなガイドラインを断じて容認することはできない」との理事長声明(2010年10月14日)を発表しました。
また、日本医学会 高久医学会会長は、「LDLコレステロール心筋梗塞などと直接関係があることは世界的に認められている。日本脂質栄養学会の指針は間違っている。」と現行を良しとする見解を述べています。

一方、臨床研究の中立・公平を標榜する臨床研究適正評価機構(J-CEAR 理事長 桑島 巌)は、「コレステロール論争に対する当機構の見解」を発表しています。

脂質異常症の基準を一律にLDLコレステロール値140mg/dl以上とすることは、不要な治療を促す要因となり兼ねない。
性差を考慮し,なおかつ治療必要性あるいは管理基準と整合性のある診断基準が必要と考える。
現行の一律基準は、判定医師の判断や受診者の疾病認識において誤解を招きやすい。

動脈硬化性疾患発症のリスクはコレステロール値のみでなく、高血圧、糖尿病、喫煙、家族歴などの他の危険因子や動脈硬化性疾患の既往も考慮したトータルな生活習慣病の管理が重要であると考える。
したがって高コレステロール血症の治療開始基準や到達目標値は、他の危険因子の存在や、心筋梗塞脳卒中などの既往の有無などで層別化した管理基準をいっそうわかりやすい形で示し,医師と国民への普及啓発が望まれる。(機構HPより抜粋)

3者の意見では、どうやら現行基準を見直し、より細分化された「新たな見解」がでてきそうな雲行きです。
患者はアタフタすることなく、冷静に推移を見守ることが賢明のようです。

http://www.pjnews.net/news/535/20101022_5/
出典 PJ news 2010.10.21




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