感染性胃腸炎から身を守る

ウイルス対策、基本は手洗い 感染性胃腸炎から身を守る

食中毒といえば、かつては梅雨ごろから増え始め8、9月に発生のピークを迎えるのが普通だった。
原因となる菌も、黄色ブドウ球菌腸炎ビブリオサルモネラ属菌などの細菌が中心だった。
これらは食品の衛生管理が徹底したことにより減少傾向にあるが、逆にウイルスが原因で起こる感染性胃腸炎が増えている。
感染力が非常に強く、冬になると子供や高齢者に集団感染する。
昨年、世界中を震え上がらせた新型インフルエンザ。
国内でも流行し様々な影響が出たが、その背景である病気に異変が起きていた。

昨年は大幅に減
国立感染症研究所の松野重夫研究官は「毎年、冬に発生するノロウイルスによる食中毒の発生が大幅に抑えられた」と話す。
ノロウイルスによる食中毒は10月に発生しはじめる。
例年、10月の患者数は200人程度だが、しだいに増え始め忘年会シーズンの12月中旬にピークとなり、月あたりの患者数は1500人から4000人。
1月以降は減り始め、真夏にはほぼいなくなる。

しかし、昨年は年末のピークがなく月数百人の発生が続いただけだった。
松野研究官は、「インフルエンザ対策として行った手洗いの慣行がノロウイルスの封じ込みにも大きな役割を果たした」と話す。

感染性胃腸炎を起こすウイルスはノロウイルスロタウイルス、サポウイルスの3種類。
このうち発症数が圧倒的に多いのがノロウイルスだ。
感染すると8時間から数日後に胃を絞られるような強い痛みが突然起こり、嘔吐、下痢をくり返す。
近年は死亡例はないが、強烈な症状で苦しめられる。

松野研究官は「これは体がウイルスを排せつしようとする反応。そのため下痢止めなどは飲まない方がいい。抗生物質も効果がないので、吐き気症状が治まるまでは安静にしているしかない。ただ水分不足になりけいれんを起こすこともあるので、こまめに水分補給をすること」と話す。
小さな子供や高齢者で水が飲めない場合は、医療機関で点滴などの処置を早めにとることが大切だ。

イメージ 1



ノロウイルスは、ヒトの小腸のなかだけで増殖し、ふん便や嘔吐物などを通じて感染する。
かつては下水などを通じてカキなどの二枚貝に取り込まれ、これらを生で食べたときなどに起こる病気だったが、最近では小児や高齢者を中心に突然の集団感染を起こすようになった。
最近、この集団感染のメカニズムが分かってきたが、驚かされるのはウイルスの強じんな生命力と感染力の強さだ。

例えば、2006年に東京・池袋のホテルで300人以上のノロウイルス集団感染が起きたが、原因は結婚披露宴に出席した人が廊下で嘔吐したこと。
ホテルの従業員は、すぐに処理し床も中性洗剤を使い消毒した。
しかし、塩素系漂白剤でないとウイルスは死なない。
最後に床に掃除機をかけたところウイルスが付着したチリが舞い上がり多くの人が感染したのだ。

最近ではウイルスに対する耐性を持ち、発症しない保菌者が増えていることも問題だ。
ピーク時には日本人の5人に1人が保菌者の可能性があると考える専門家もいる。
そうしたヒトが気付かないまま外出、電車のつり革などを通じて他人に感染させる。
だからインフルエンザと同様、こまめな手洗いがノロウイルス対策に大きな効果をもたらしたのだ。


吐いたら個室へ
最大の弱者は乳幼児や高齢者だ。
家族が、帰宅後、昨年と同様の手洗いを行うだけで感染を防ぐことができる。

ウイルスの特徴が判明するなか高齢者向けの介護施設の対策も進んでいる。東京都高齢社会対策部施設支援課の加藤みほ課長は「流行がはじまる初秋に施設スタッフを集めた研究会を開催している」と話す。ポイントは、まずスタッフを含めた外来者の手洗いを慣行、貝類を調理したときは調理器具を熱湯で消毒、突然嘔吐した人は個室に移し、床は広い範囲を塩素系漂白剤でふくなどだ。 (ライター 荒川 直樹)


イメージ 2




出典 日経新聞・Web刊(日経プラスワン) 2010.10.10
版権 日経新聞




<過去の記事に追加しました>
乳がんと遺伝子
http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy/37198305.html




イメージ 3


児玉幸雄 『パリ風景』 油彩
http://www.seikougarou.co.jp/sell/kodamayukio/791.html




他に
井蛙内科開業医/診療録(4)
http://wellfrog4.exblog.jp/
(H21.10.16~)
井蛙内科開業医/診療録(3)
http://wellfrog3.exblog.jp/
(H20.12.11~)
井蛙内科開業医/診療録(2)
http://wellfrog2.exblog.jp/
(H20.5.22~)
井蛙内科開業医/診療録 
http://wellfrog.exblog.jp/
(H19.8.3~)
(いずれも内科専門医向けのブログです)
「井蛙」内科メモ帖 
http://harrison-cecil.blog.so-net.ne.jp/
葦の髄から循環器の世界をのぞく
http://blog.m3.com/reed/
(循環器専門医向けのブログです)
「葦の髄」メモ帖
http://yaplog.jp/hurst/
(「葦の髄から循環器の世界をのぞく」のイラスト版です)
があります。