多発性骨髄腫

血液のがん「多発性骨髄腫」、共存の時代へ

正常な細胞を移植 薬物治療も進歩
多発性骨髄腫は骨の中にある骨髄で異常な細胞が増える血液のがんだ。
腰痛だと思ったらこの病気だったというケースもある。
治療の難しい病気の一つだが、最近はさまざまな薬が登場するなど治療法も進歩している。

多発性骨髄腫は中高年に多く、女性より男性患者がやや多いとされる。
年間10万人あたり3~4人が発症し、国内の患者数は約1万3000人とみられる。
 
発症の原因は、骨髄の中で免疫に携わる形質細胞と呼ぶ細胞のがん化だ。
通常は全身の複数の骨が侵されるために多発性骨髄腫と呼ばれている。
この異常でがん細胞が増えると、赤血球や白血球をつくる役割を持つ造血幹細胞が減り、貧血や免疫力の低下などを引き起こす。

■健康診断で発見
異常なたんぱく質ができて腎臓内で詰まり腎不全になったり、骨を溶かす破骨細胞が刺激されて骨がもろくなったりするケースもある。
腰痛で整形外科に通っていたら、実は多発性骨髄腫だった人もいる。
 
本人に自覚症状がなく、健康診断などで病気が見つかる場合も多い。

多発性骨髄腫の治療は、65歳以下では「自家造血幹細胞移植」と呼ぶ方法を実施する例が多い。
これは最初に正常な幹細胞を取り出しておき、抗がん剤で骨髄内の細胞を全て除去した後で、幹細胞を体の中に戻して骨髄を再生する。
 
治療効果は高いが骨髄が再生するまで感染症の危険があり、一定の体力が求められる。
65歳超の患者は薬物治療が主になるが、本人の体調次第で移植をする例もあるという。
細胞移植をした後も薬を投与し、再発防止を目指す。

薬物治療も進歩し、近年はさまざまなタイプの薬が登場している。
基礎研究も進み、治療にいろいろな戦略が取れるようになってきた。

たとえば、プロテアソーム阻害剤と呼ぶ薬は異常細胞が自らに有害なたんぱく質を分解する仕組みを壊し、細胞を殺す。
06年に保険適用されたボルテゾミブが使われている。
カルフィルゾミブという薬も国内で臨床試験が進んでいる。
 
約50年前に胎児に重大な薬害をもたらしたサリドマイドも、多発性骨髄腫の治療に使われる。
その後の研究で、異常細胞が周囲に血管を呼び寄せて栄養をとろうとするのを阻む作用が見つかったためだ。
 
サリドマイド以外に、直接細胞を殺す作用を併せ持つレナリドミドという薬もある。
治療効果がさらに高いポマリドミドも今年3月に国の承認を得た。
これら3種は厳重な安全管理の下で使うことになっている。
妊娠中の患者は使用を避ける。
 
こうした薬以外でも実用化に向けた取り組みが進む。
多発性骨髄腫を発症すると生存期間が3年程度といわれてきたが、今は10年以上のケースもある。
普通に仕事や家事を続けられる人もいる。

■最新情報収集を
多発性骨髄腫の根治は難しいが、共存していく考え方がこれからは重要だ。
最新の治療法でがんの増殖などを抑えつつ、薬が効きにくくなったら新たに登場した薬を使う方法で、生存期間を延ばせる可能性があるからだ。
 
そのためにも患者やその家族は、治療法の最新動向などをつかんでおくとよい。

出店
日経新聞・夕刊 2015.4.3


私的コメント
最近、多発性骨髄腫の症例を経験しました。
ごく初期での発見で、紹介先の大学病院教授から「これだけ早期に診断出来たケースは珍しい」という返事をいただきました。
60代の男性で2年の経過で貧血が徐々に進み血清総蛋白がじわじわ増加。
検査所見はそれだけで本人の自覚症状は全くありませんでした。

参考
「日本骨髄腫患者の会」
http://www.myeloma.gr.jp