運動で防ぐ軽度認知障害(MCI)

軽度認知障害、運動で防ぐ 暗算しながらで効果増

認知症になるリスクは高いが、発症に至らずにすむ可能性も大きい――。
軽度認知障害(MCI)という段階で診断し、運動トレーニングなどによって発症を予防しようという機運が強まってきた。
MCIとはどのような状態で、この段階での取り組みはどこまで有効なのだろうか。

 ◇  ◇

MCIは認知症ではないものの、認知機能が年相応といえない程度に低下している状態を指す。
時折、物忘れが出るなどして本人や身近な人が異常を感じることもある。
ただ、日常生活を送るのが困難になるほどの支障はなく、仕事でも大きなミスはないというレベルだ。

厚生労働省研究班によると、MCIに当てはまる人は2012年の段階で約400万人で、65歳以上の高齢者の約13%に上る。
認知症の高齢者数約462万人に迫る数字だ。
 
MCIが注目されているのは、この状態から認知症に移行するリスクが高い半面、この段階で発症が抑えられるケースも多く、認知症になる人を減らせると考えられるようになってきたからだ。
オーストラリアの研究によれば、認知症の発症時期を平均2年遅らせることができれば、2050年時点の同国内の認知症の有病率を20%下げられる。
5年間遅らせると有病率は43~49%下がる。
 
現時点で認知症の治療薬開発の見通しがついていないことも、MCIへの注目が高まる背景だ。
認知症の多くを占めるアルツハイマー病の治療薬は、進行を遅らせる効果はあるものの、病状を回復させることは難しいとされている。
 
アルツハイマー病では「アミロイドβ」という物質が10~20年程度かけて脳内に蓄積し、やがて「タウ」という別の物質も蓄積して記憶障害などのMCIに至ると考えられている。

<私的コメント>
ちょっと混乱する表現です。
あくまでも「正常 → MCI → 一部がアルツハイマー病に移行」という時間的関係にあります。
MCIについての病理的な解明は現在に至るまで十分されていません。
それはMCIの段階で解剖される方が限られているからでもあります。


ただ、アミロイドβが著しく蓄積した人でも発症しない人もおり、何が発症の引き金なのかが必ずしもはっきりしていない。
 
MCIの人の14~44%の人が回復したという疫学データがある。
取り組み方次第で、認知機能の低下を防げる可能性は高い。

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認知症につながるリスク要因として糖尿病や高血圧、肥満などの生活習慣病や、喫煙などがある。
専門家が重視しているのが「運動不足」によるリスクだ。
認知症予防のために何か1つといえばまず、運動不足の解消に努めるのがよい。
 
運動プログラムとして推奨されるのが、単に体を動かすだけでなく、頭を使いながら有酸素運動をするというやり方だ。
暗算やクイズなどの課題を解きながら速足で歩いたりする。
「コグニション」(認知)と「エクササイズ」(運動)を組み合わせ「コグニサイズ」と呼んでいる。

こういったことは1人で取り組むこともできる。
例えば、通り過ぎる車のナンバープレートの数字を覚えたり、川柳を作りながら歩いたりするのも一つの方法だ。

<私的コメント>
バイリンガルの人は脳が常に2つの言語をジャグリングしているので、パズルを行う必要はないという記事がありました。

http://media-pickup.com/science/20141113/speaking-two-languages-is-better-than-sudoku-for-brain/
また、衛生的な高所得国という環境はアルツハイマー病(AD)の発症リスクになる、という報告もあります。
http://diamond.jp/articles/-/43382
インド人は認知症の発症率が少ないと言う話はわりと有名です。
カレーの成分としてのクルクミンが発症を抑えているという研究がありますが、衛生的でないことも関係しているかも知れません。
もっとも2012年の男女平均寿命の統計ですが、日本が83歳に対してインドは66歳です。
http://dot.asahi.com/wa/2015051500066.html

体と頭を同時に使うデュアルタスク(二重課題)を工夫して、自分に合ったメニューを作るのがよい。

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たんぱく質・脳画像調べる… 早期発見、技術開発進む
軽度認知障害(MCI)を診断するための技術開発が進んでいる。
MCIを早期に確実に見つけることで、病気の予防や治療の可能性が高まることが期待されている。
血液中の特定のたんぱく質を調べることで、MCIのリスクを判定する検査を今年(2015年)春から本格的に始めたバイオベンチャー企業もある。
アルツハイマー病の原因とされるアミロイドβの蓄積を阻止する働きをする3種類のたんぱく質の血液中の濃度を手掛かりに判定する。
 
関連たんぱく質の血液中の濃度を測定することでMCIを発見できる技術も開発中だ。
 
脳画像による診断技術の開発も進んでいる。
脳内のアミロイドβとタウたんぱく質の蓄積の度合いを調べて、MCIの早期発見に役立てようとしている研究施設もある。

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出典
日経新聞・朝刊 2015.8.23