腱板断裂

五十肩と酷似・腱板断裂 MRIで早期発見重要

中年以降で「肩が痛くて夜も眠れない」、「肩が痛くて腕が挙がらない」というと、「五十肩じゃない?」と放っておくことも多い。
また、「どうせ五十肩だからすぐには治らない」とあきらめている人もいるだろう。
だが本当に「ただの五十肩」なのだろうか?

肩の痛みを訴えていた人が「実は腱板断裂だった」という場合が少なくない。
肩の痛みを引き起こすことが多く、症状が五十肩によく似ている病気に「腱板断裂」がある。

肩関節は、上腕骨と肩甲骨との間にある関節で、これを動かすために肩の外側と内側にはいくつかの筋肉がある。
このうち肩の内側にある四つの筋が板状になり上腕骨に付着する部分を「腱板」と言う。その主な役割は、肩関節を安定させ、スムーズに動かすことだ。

腱板は転倒や転落などのケガにより断裂する場合がある。

そのほか、加齢による腱自体の変性や、繰り返し腕を挙げる作業を行うことにより徐々に断裂が生じる場合がある。
中高年に発症し、リンゴ農家の方や大工さんらに多くみられる。

また、野球やテニス、重いものを持ち上げるスポーツをしている人は若くして腱板断裂する危険がある。

症状としては、肩を動かしたときや夜間の痛みのほか、ポキポキという音がすることがある。
また、腕を挙げたり、回したりする力が弱くなり、腕を挙げられなくなることもある。
症状が進行した患者さんでは、肩の周りの筋肉がやせてくる。

腱板断裂の診断にはMRIが有用だ。
最初は小さな断裂でも、放置すると断裂が広がる広範囲腱板断裂となり、さらには肩関節の軟骨がすり減ってくる。
腱板の断裂が大きくなると、治療が難しくなるので、早期発見・早期治療が重要だ。

高齢で活動性が低い患者さんには飲み薬や湿布、注射などの保存療法を行う場合もあruが、壮年期の働き盛りの患者さんに対しては出来るだけ早く手術治療を行い、社会復帰を目指す。
手術治療の原則は、上腕骨から剥がれた腱板を、再び骨に縫いつけることだ。
これを「腱板修復術」と言う。

手術には、5ミリ程度の小さな皮膚切開から関節鏡を挿入して行う方法と、皮膚を10センチ程度切開して行う方法がある。
術後はわきに枕を入れて固定し、徐々にリハビリテーションで肩を動かしていく。
腱が骨にくっつくまでの間は力を入れる動作は禁物なので、通常術後3カ月程度は、力仕事はできない。

多くの患者さんは、手術によって日常生活に困らない程度まで肩の機能が回復するとされている。
断裂の程度や状態によって予後は変わる。
断裂が大きく、断裂していた期間が長いほど、腱の質が低下して再断裂の頻度が高まり、機能の回復が難しくなる。
さらに、大きな断裂になると、腱板修復自体ができない場合もある。

肩の痛みを感じたら、「五十肩」と自己判断しないことが大切だ。
弘前大学大学院医学研究科整形外科学・木村由佳助教

出典
朝日新聞・夕刊 2015.11.27


<腱板断裂・関連サイト>
腱板断裂
https://www.joa.or.jp/jp/public/sick/condition/rotator_cuff_tear.html 
・40歳以上の男性(男62%、女38%)、右肩に好発します。発症年齢のピークは60代。
・肩の運動障害・運動痛・夜間痛を訴えますが、夜間痛で睡眠がとれない。
・運動痛はあるが、多くの患者さんは肩の挙上は可能。
・五十肩と違うところは、拘縮、すなわち関節の動きが固くなることが少ないこと。
・挙上するときに力が入らない、挙上するときに肩の前上面でジョリジョリという軋轢音がするという訴えもある。
・腱板断裂の背景には、腱板が骨と骨(肩峰と上腕骨頭)にはさまれているという解剖学的関係と、腱板の老化があるので、中年以降の病気といえる。
(私的コメント; サイト中の図を参照)
・明らかな外傷によるものは半数で、残りははっきりとした原因がなく、日常生活動作の中で、断裂が起きる。男性の右肩に多いことから、肩の使いすぎが原因となってことが推測される。
・断裂型には、完全断裂と不全断裂がある。