リハビリ施設、入念に選ぶ

リハビリ施設、入念に選ぶ 情報集め相談室も利用を 開始時期・チーム体制・退院後想定

脳卒中や脳のケガ、骨折で病院に運ばれたら・・・。
無事に手術は終わっても、それだけで元の生活には戻れない。
リハビリテーションによる機能回復がカギを握る。
重い後遺症が残りそうな場合でもリハビリ次第で一定の回復が望めることも。
どんな医学的リハビリをどのタイミングで行うのがいいのだろう。

「起き上がることも、話すこともできなかった夫が、私の手のひらに指で『ありがとう』と書いたんです。回復できるに違いないと思いました」と女性(60)。
夫(61)がくも膜下出血で倒れて大学病院で手術を受けたが、寝たきり状態になった一昨年のことを振り返る。

病院から「回復は難しい。療養型施設に行ってください」と言われた。
諦めきれずに、ある回復期リハビリテーションセンターにセカンドオピニオンを求めた。
このセンターの医師は脳の画像を見て「回復の余地がある」と診断。
3カ月のリハビリで、話したり、口から食べたりできるようになり、車椅子での移動も可能に。
倒れる前の状態には戻れていないが女性は満足げだ。
 
急病や事故で病院に家族が運ばれると、まずは命が助かることを望む。
だが、一命を取り留めても、意思が伝わらず、本人や家族がつらい思いをすることがある。
リハビリは運動機能や日常生活動作(ADL)、えん下機能などの回復だけが目的ではない。
コミュニケーション能力を回復し、感情を穏やかにコントロールできて初めて人間力の回復ができる。

早めの開始を
もっとも、回復期リハビリテーション保険診療として制度化されたのは2000年。
提供態勢は必ずしも万全とはいえないが、少しでも、効果的にリハビリを受けるためのポイントを整理してみよう。
 
第1はタイミングだ。
手術などの治療をした急性期の患者は安静に保つというのが長く「病院の常識」だった。
今は患者を早くベッドから起こして動かすよう変わり始めている。
患者をあまり動かさず安静を長引かせると、筋肉など体の機能が衰える廃用症候群になりやすいという。
 
病気の症状が安定した頃から始まるのが回復期リハビリ。
診療報酬のきまりで、発症日から2カ月以内なら開始できる。
ただ集中治療室から一般病棟に移るなど、比較的早いタイミングで回復リハビリを始めることが大切だ。
急性期病院で対応できないなら、回復期リハビリ病院への早期転院という手もある。
 
第2のポイントは、リハビリを支えるチーム医療のメンバーとその連携だ。
医師や看護師、理学療法士作業療法士言語聴覚士介護士、歯科衛生士、社会福祉士らが患者情報を共有しているか。
必要ならば、互いの領域を手伝うのも珍しくない。

日常生活を再現
第3のポイントは、その病院が何をリハビリ訓練と考えているかだ。
保険診療のリハビリ訓練は最長1日3時間だが残り21時間もリハビリと捉えたい。
患者が退院後にどんな生活をするか考え、日常生活をできるだけ再現するのが大事。
例えば一日中パジャマで過ごすのではなく、朝は着替えて食堂で食事、自分でトイレに行き、昼間は趣味をして過ごすなどだ。
家族は、日中も患者が活動的にしている病院かどうかをチェックした方がいい。
 
チーム医療が力を発揮するためにはリハビリ専門の医師が患者をみて、しっかりとリハビリ計画が立てられるかどうかがカギになる。
病気だけでなく、患者の血圧や呼吸、精神面、排せつ、栄養、睡眠、皮膚、血糖値など全身管理ができる医師が回復期リハビリテーション病院にいるかどうかを、急性期病院の医療相談室などからも情報を得て確かめたい。
 
多くの人が建物の立派さや自宅との距離で病院を決めてしまう。
しかし、回復期リハビリの成否がその後の暮らしを決める。
選択は慎重にしたい。

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手術直後から退院後まで継続
急性期病院でも積極的にリハビリに取り組む動きが目立つ。
手術直後から動くことが病状の回復を助けることや、安静に寝たままだと、高齢者の筋萎縮や認知機能の低下が進むことが分かってきたからだ。
 
外科手術の前から体を動かして備え、直後からリハビリを始めたり緩和ケア病棟でもリハビリを行う病院も現れた。

末期がんでも寝たきりにせずリハビリをし、トイレに自分で行ったり、車椅子で移動したりできるようにすると笑顔がよみがえる、という。
 
急性期から生活期まで切れ目無いリハビリが必要。
脳卒中患者を対象に、急性期病院と回復期リハビリ病院、在宅医の間で患者情報が共有できる「連携パスポート」を発行、患者自身に持ち歩いてもらっている自治体もある。
転院や退院後も、継続的に症状に適したリハビリを続けられる。

参考・引用
日経新聞・夕刊 2016.8.4