がんの免疫療法

がんの免疫療法 広がる「免疫ブレーキ解除」作戦

がんの治療で手術、放射線抗がん剤などの薬に次ぐ「第4の治療法」と言われる免疫療法。
様々なタイプがあり、保険適用が進む薬がある一方、治療の効果が明らかでないものもある。

免疫とは自分(自己)と、異物(非自己)を見分け、異物を攻撃して体を守る仕組みのことだ。
異物には、体外から侵入する細菌やウイルスといった病原体と、がん細胞のように体内で発生する異常な細胞がある。
 
免疫には自然免疫と獲得免疫の2種類がある。
最初に異物を攻撃するのが自然免疫だ。
白血球の一種の好中球やマクロファージは異物を食べ、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)は細菌などに感染した細胞やがん細胞を攻撃して被害が広がるのを防ぐ。
一方、獲得免疫は樹状細胞から伝えられた異物の目印「抗原」の情報を記憶し、同じ異物を見つけると素早く攻撃を始める。
しかし、がん細胞も抗原を隠したり、免疫を抑える物質を出したりして巧みに増殖していく。
 
これに対抗するがんの免疫療法は大きく二つに分かれる。
一つはがん細胞への攻撃力を強めるもので、免疫を活性化すると考えられる物質を体内に入れる方法と、体外で活性化させた免疫細胞を体内へ戻すなどの方法がある。
 
もう一つはがん細胞が免疫にかけているブレーキを解除して攻撃力を取り戻すもので、オプジーボ(一般名ニボルマブ)などの「免疫チェックポイント阻害薬」はこのタイプだ。
このタイプの薬が使えるがんの種類は広がり、複数の薬が販売されているが、承認されたがんの患者全てに効くわけではない。
 
日本がん免疫学会理事長の河上裕・慶応大教授によると、免疫チェックポイント阻害薬を単独で使った場合、がんが完全に消えるか30%以上小さくなる奏効率は約10~30%。
「薬が効くかどうかを見分けるバイオマーカーの開発が重要」と話す。
 
日本臨床腫瘍学会は昨年12月、がん免疫療法に関する指針を作成し公表した。
推奨される免疫療法があるのは発行時点で、主な18種類のがんのうち肺がんや血液がんなど6種類とした。
 
作成の中心となった山本信之・和歌山県医大教授によると、免疫療法への注目が集まる中、科学的に証明された部分と証明されていない部分を明確にすることが指針作成の狙いと言う。
 
山本さんは「免疫チェックポイント阻害薬は承認されるがんがどんどん増え、他の治療法との併用も研究されています。指針も短い期間で改定したい」と話す。
 
国立がん研究センターは今年3月、運営する情報サイト「がん情報サービス」(http://ganjoho.jp)で解説していた免疫療法の内容を一新した。
サイトでは、免疫療法のタイプ別に国の承認や、日本臨床腫瘍学会の指針への記載の有無も含めて特徴を説明。
治療の効果が確認されて保険適用された免疫療法がある一方、広義の免疫療法の中には効果が確認されていないものもあり、「慎重な確認が必要」と注意を呼びかけている。
 
担当した若尾文彦・がん対策情報センター長は、「免疫療法は多くの人が期待することが多いが、治療効果が確認されているものは限られています。効果が確認されているものでも今までにない副作用が起こりえる。保険適用された治療を専門施設で受けることが重要」と話す。
 
治療の疑問などは、全国のがん診療連携拠点病院などにあるがん相談支援センターが相談を受け付けている。
がん情報サービスサポートセンター(電話0570・02・3410、平日午前10時~午後3時)にも相談できる。

 
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参考・引用
朝日新聞・朝刊 2017.8.5