若年性認知症

若年性認知症、症状に応じ就労や生活相談

65歳未満の現役世代が発症する「若年性認知症」について、行政が相談窓口を設けるなど支援に本腰を入れ始めた。
現役世代の多くは家族の扶養や住宅ローン、高齢の親の介護などを抱えており、発症すれば本人だけではなく周囲への影響も大きい。
就労の継続や安定した生活を送るための様々な制度の活用、退職後の居場所づくり――。症状の進行に応じた切れ目のない支援が欠かせない。

2016年11月、東京都内で2カ所目となる若年性認知症の相談窓口として開設された都多摩若年性認知症総合支援センター(日野市)。
「夫が認知症みたいで……。会社でもトラブルを起こしているが、どうしたらいいか」。
電話をかけてきたのは50代の夫を心配する専業主婦の妻だった。

先回りして準備
「できることは全部やりましょう」。
同センター長は妻と何度も連絡を取り、夫や家族の状況を聞き取った上で、自宅を訪問。
まだ働けると考える夫に、その気持ちを傷つけないように配慮しながら「先のことを考えて社会保障の手続きを進めませんか」と説得した。
 
主治医とも相談し、できる限り仕事を続けたいとの本人の希望を受けて勤め先の上司とも話し合った。
 
先回りして準備することが大切なため、症状が進み退職しても経済的に困窮しないように医療、福祉、就労の関係機関を駆け回る。
障害年金などの申請手続きでも自治体の窓口に同行する。
 
若年性認知症の患者は全国に約4万人。
3人の若年性認知症支援コーディネーターがいる同センターでは開所した11月以降、支援件数が100件を超えた。
 
都立松沢病院院長は「現役世代だからこそ、患者は自分が認知症であることを受け入れるのに時間がかかる」と指摘する。
「(専門医や行政などが)患者の気持ちに寄り添って継続的な支援ができれば、早期の診断が早期の絶望にはならない」と話す。
 
政府も全国的に支援体制の拡充を目指す。厚生労働省によると、3月末時点で若年性認知症に関する施策は42都道府県が実施。
都のように専用相談窓口を設けているのは16年10月時点で20都道府県に上る。
 
富山県も16年7月、若年性認知症相談・支援センター(富山市)を開設。3月末までに支援した人は50人を超え、想定よりも多い相談が寄せられているという。

症状が進行し、退職した後の居場所探しも課題の一つ。
受け入れる福祉施設が少ないのに加えて、高齢者と同じ施設で過ごすことに抵抗を感じる患者は多い。
 
さいたま市は11年度から若年性認知症の患者が交流する場「アクティー浦和」を設置。
現在6人の患者が通う。
 
「ほかの施設にも通っているけど、ここが一番楽しいよ」。
同市の元会社員の60代男性はほほ笑む。
この日は市内のマンションの一室に患者5人が集まり、介護福祉士ら3人がサポートしながら買い物やカレーライスの調理を実施。
午後には複数の牛乳パックを活用した簡易なイスを製作する作業に取り組んだ。
男性は「(病気で)できなくなったことも多いけどサポートがあればできた」と喜ぶ。
 
同市の委託で運営する特定非営利活動法人生活介護ネットワーク」の代表は「社会とのつながりを実感できる場を提供することが重要」と話す。

社会貢献の場
静岡県は今夏にも、患者が社会貢献できる場をつくるモデル事業を始める。
静岡市浜松市の計3カ所の施設で、週1回程度、施設内の厨房での作業や竹炭作りといった作業をしてもらう。
静岡県・市と浜松市の担当者も関わり、地域で患者を支える仕組みをつくりたい考えだ。
 
同県の担当者は「生活費を稼ぐ場所にはならないが、症状に応じてできる仕事をしてもらうことで、やりがいを感じてもらえれば」と期待している。

◇  ◇  

原因は脳梗塞多く 発症の平均51歳 家族の生活に大きな影響
厚生労働省が2009年に公表した調査結果によると、若年性認知症の推定発症年齢は平均51.3歳。性別でみると、人口10万人当たりの患者数は男性57.8人、女性36.7人で男性が上回る。
 
症状は高齢者の認知症と同じだが、原因は大きく異なる。
高齢者の認知症で約7割を占めるアルツハイマー型は25.4%にとどまる。
若年性で最も多いのは脳出血脳梗塞などによる脳血管性認知症(39.8%)。
このほか頭部外傷後遺症(7.7%)、前頭側頭葉変性症(3.7%)、アルコール性(3.5%)などが続く。
 
有効な治療法は確立されておらず、症状の進行具合は人によってそれぞれだが、進行が早い人では2~3年のうちに就労が難しくなるという。
 
患者数は人口の減少に伴い、今後大幅には増えないとみられている。
ただ家庭を支える現役世代の発症は家族の生活に大きな影響を及ぼす。厚生労働省は支援策の充実につなげるため、今年度から患者や家族の就労状況や生活実態などを全国的に調査する予定だ。

 
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参考・引用
日経新聞・朝刊 2017.7.24