注射薬を貼り薬に

注射薬を貼り薬に 微細な針並べ、痛み少なく

注射でしか投与できなかった薬を貼り薬にする研究が進んでいる。
富士フイルム北海道大学はインフルエンザの「貼るワクチン」を開発し、動物実験で従来より高い効果を確認した。
京都薬科大学ベンチャー企業と共同で糖尿病治療薬を皮膚から投与するパッチを試作した。
いずれも薬液を含んだ微細な針を並べたもの。痛みが少なく負担の軽減につながりそうだ。
 
皮膚から体内に吸収されて効果を発揮する貼り薬は、薬効成分の分子が比較的小さく吸収しやすい薬では実用化されている。
だがワクチンやペプチド医薬など分子量が大きい薬は、貼り薬にするのは困難とされていた。
 
富士フイルム北海道大学は共同で、皮膚に貼って投与するインフルエンザワクチンを開発した。
体内で溶ける糖の高分子にインフルエンザウイルスのたんぱく質でできたワクチンを混ぜて長さ0.5ミリメートルの微小な針を作り、パッチの上に並べた。
 
パッチを皮膚に貼って数分後にはがすと、体内に針が残って徐々に溶けワクチンが放出される。
マウスの皮膚に貼って約4週間後に血液を調べたところ、注射ワクチンの5分の1の量で、ウイルスに対抗する抗体が増えることがわかった。
 
マウスに貼るワクチンを接種した後、致死量の10倍のウイルスを鼻に入れて感染させたところ、6匹すべてが2週間後も生存していた。
注射ワクチンを接種したマウスでは1匹だけだった。
富士フイルム側は「ウイルスを認識して抗体の産生を促す細胞は皮膚近くに多く存在するため、貼る方が高い効果が得られる可能性がある」と話す。
 
同社はこのほど、人間に使える品質のパッチの製造設備を整備した。
今後ブタを使った実験で針の大きさなどを最適化し、臨床試験につなげる。
 
京都薬科大学発のベンチャー、コスメディ製薬(京都市)と京都薬科大は、糖尿病の治療薬を貼って投与するパッチを開発した。
 
1センチほどのパッチに、長さ0.8ミリメートル、先端の直径が40マイクロ(マイクロは100万分の1)メートルの微細な針を140本並べ、先端に糖尿病治療薬のエキセナチドを塗った。
エキセナチドはインスリンの分泌を促すペプチドで、現在は週に1回ほど、専用の器具を使って患者が自分で皮下注射している。
 
ラットの背中にパッチを貼って投与したところ、通常の皮下注射と同量の薬が血中に入っていることが確認できた。
 
パッチをはがす際に針が折れても、針は体内物質のヒアルロン酸でできているため安全だという
京都薬科大とコスメディ製薬は共同で実用化を目指す。


新たな投与手法 薬の効果引き出す
皮膚に貼るタイプの薬は、痛みがないほか薬が徐々に吸収され効果が長く続くなどの利点があり、痛み止めやせき止めで実用化されている。
 
ただ、皮膚から吸収できるのは、薬効成分の分子量が500以下と比較的小さい薬に限られる。
ワクチンやペプチド医薬など分子量が大きい薬を貼り薬にするのはこれまで難しかったが、微細な針を使うことで、注射と同等以上の効率で薬を送達できるとみられる。
 
鼻に噴霧して粘膜から吸収する投与方法の適用範囲を広げる開発も進んでいる。
糖尿病治療薬のインスリンを細胞膜の透過を助けるペプチドと混ぜることで、鼻から吸収しやすくなることを見いだした。
 
ラットの鼻に混合した薬を噴霧したところ、静脈注射と同量のインスリンが血中に入ることが確認できた。
同様の効果があるとみられるアミノ酸を使い、来年にも臨床試験(治験)を始めたい考えだ。
 
薬は投与経路が異なると効果も異なることがある。
新たな投与手法の開発は、薬の効果を最大に引き出す上でも重要になりる。

参考・引用
日経新聞・朝刊 2016.8.15