ヒトパピローマウイルス(HPV) 時代に応じた対策が必要

時代に応じた対策が必要

子宮頸(けい)がんは、胃がん、肝臓がんと並ぶ「感染型」のがんの代表で、原因のほぼ100%が性交渉に伴うヒトパピローマウイルス(HPV)の感染だ。
性交渉の開始が低年齢化したため、今や30代が子宮頸がんを発症するピークで、20代にも急増している。
ただ、ウイルス感染がなければ子宮頸がんはまず発症しませんから、ワクチンで予防できる。
ウイルスには様々な型があり、ワクチンですべての感染を予防できるわけではないが、接種すれば子宮頸がんの発症リスクは3割程度まで(海外の最新のものは1割まで)下がる。
 
日本でも2013年4月から子宮頸がん予防ワクチンを無料で定期接種できるようになり、接種率も一時は7割に達した。
しかし副反応の報告などによって、同年6月に厚生労働省が積極的な勧奨を中止し、現在に至る。
接種率も大幅に低下し、1%程度にとどまっている。
このままではある学年から子宮頸がんが減り、別の学年からまた元に戻る可能性も指摘されており、心配な状況だ。
 
なお性行動の多様化によって、HPVによる発がんは子宮頸部以外にも拡大している。
とくに扁桃腺などにできる中咽頭のがんは国内で年間約2000人が発症するが、その約半数がHPVの感染が原因といわれる。
 
これまでは、中咽頭がんの主なリスク因子は肺がんと同様に喫煙だった。
喫煙率の低下に伴って肺がんの頻度は下がっている一方で、中咽頭がんは増加傾向にあり、HPV感染の寄与が高まっていることが示唆される。
 
HPVは肛門がんの原因にもなる。
厚労省もHPVの感染を予防するワクチンの名称を「子宮頸がん予防ワクチン」から「HPVワクチン」に変更しました。
 
欧米ではHPVワクチンは男子への接種も当たり前で、日本との差は歴然だ。
事実、欧米では急激に減っている子宮頸がんの死亡率は、日本ではむしろ高まっている。
同じ感染型のがんである胃がん、肝臓がんが死亡率が激減しているのとは対照的だ。
 
がんは社会とともに姿を変えていく病気だ。
マイナス面にも配慮しながら、時代に応じた対策を進める必要がある。

執筆
東京大学病院准教授・中川恵一先生

参考・引用
日経新聞・夕刊 2018.6.27