子宮頸がんワクチン、積極的勧奨中止から6年

子宮頸がんワクチン、積極的勧奨中止から6年 続く検証

子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)に感染するのを防ぐための「HPVワクチン」について、厚生労働省が積極的に接種を勧めるのをやめてから6年になる。
接種ががんの発症を減らせることを示唆する複数のデータが公表される一方で、重い副反応への心配も消えたとはいえない。

効果示す研究発表 相次ぐ
東京都の会社員女性(48)は、中学3年の長女(14)へのワクチン接種について悩み続けている。
 
娘が子宮頸がんになるのを防ぎたい。
効果はあるのだろうが、娘に重い副反応が起きないか不安だ。
夫(51)も娘を説得してでも「接種してほしい」とは言えないでいる。
女性は「娘がどう考えているかを聞くことができずに、日々が過ぎていく」と話す。
 
子宮頸がんは性交渉でHPVに感染することで起こる。
HPVは感染してもほとんどは自然に消えるが、感染し続けると前がん病変ができ、一部ががんになる。
ワクチンは、がんになりやすい特定のタイプのHPVウイルスへの感染を防ぐため、複数回注射する。
国内で子宮頸がんになる人は年間約1万人で、約2800人が死亡している。
 
HPVワクチンの効果の研究は、国内外で相次いで発表されている。
大阪大などのグループは4月、松山市での20歳女性への子宮頸がん検診の分析結果を報告した。
1991~93年度に生まれ、ワクチンを受けていない7872人のうち、前がん病変で最も進んだ「CIN3(高度異形成と上皮内がん)」が7人(0.09%)いた。
一方、ワクチンが導入されて79%が接種を受けた94~96年度生まれの7389人ではゼロだった。
 
CIN3だからといって子宮頸がんになるとは限らないが、CIN3を防げれば、がんを減らせる可能性は高いと考えられている。

英国エジンバラ大などのグループも4月に同様の結果を発表。
男児も接種する豪州では昨秋、ワクチン接種と検診で、子宮頸がんになる人の割合を「現在の10万人あたり7人から、2028年には4人未満に減らせる」とし、子宮頸がんは遠くないうちに「撲滅」できるとの見解が示された。
日本での同様の割合は10万人あたり約14人(15年)で、患者は若い世代を中心に増加傾向にある。
 
世界の研究者が協力して信頼性の高い医療情報の提供を目指す「コクラン」という組織は昨春、これまでの研究結果から「ワクチンの予防効果は確実性が高く、重い有害事象のリスクは高まらない」とする論文を発表した。
だが、一部メンバーが「ワクチンの関連企業から資金提供を受けていた研究者が、研究の評価に加わっている」と指摘、論文内容を批判した。
 
コクランジャパン前代表は「結果的に内容が変わらなかったとしても、ワクチン関連企業とかかわりのない研究者だけで評価をまとめるべきだった」と振り返る。

重い副反応 ヒブより高い頻度
ワクチンは健康な人に使うため、一の安全性が求められる。
だが、HPVワクチンの安全性は専門家の間で評価が必ずしも一致していない。
 
ワクチン接種後、体の広範囲にわたる痛みなどを訴える例が相次いだ。
また厚労省によると、呼吸困難やじんましん、嘔吐といった重い症状が10万人当たり、52.5人の割合(17年8月現在)で報告された。
その頻度は、インフルエンザ菌b型(ヒブ)ワクチンなどほかのワクチンと比べ高い。
 
世界保健機関(WHO)の委員会はワクチンを「極めて安全」とするが、米国医学研究所(現・全米医学アカデミー)は11年、全身性のアレルギー反応「アナフィラキシー」と、接種との関係がある
と推定した。
 
鹿見島大・神経内科の高嶋教授は、実際に診察した50人近い患者の特徴から「まひやけいれんなどを含む重い症状の人では、免疫の異常で脳に炎症が起きている」とみる。
免疫の働きを抑える治療を試みると、改善することが多いという。
ワクチンに含まれる免疫反応を高める成分との関連を指摘する声もある。
 
ただ、幅広い症状がどんな原因で起きているのか、どんな人が重くなりやすいのかなどわかっていない点が多い。

HPVワクチン積極的勧奨中止
HPVワクチンは2013年4月、予防接種法に基づいて国の定期接種となり、市町村が対象者(小学6年~高校1年の女子)に個別に通知して接種を呼びかける「積極的勧奨」になった。
しかし、健康被害を訴える人が相次ぎ、2ヵ月後に定期接種にしたまま積極的勧奨を中止した。
 
現在も多くの自治体が費用の全額を補助しており、希望する人は接種を受けられる。
しかし、16年に接種した人は対象者の0.3%にとどまる。
 
厚労省は昨年、ワクチンに関するリーフレットを改訂。
本人や保護者に「ワクチンの『意義・効果』と『接種後に起こりえる症状』について確認し、検討してください」と呼びかけている。
救済制度もある。
審査でワクチンによる健康被害と認められれぱ、医療費の給付を受けられる。


参考・引用一部改変
朝日新聞・朝刊 2019.6.12