アトピー、薬塗り続ける新治療

アトピー、薬塗り続ける新治療 「見えない炎症」抑える

アトピー性皮膚炎の新たな治療法が定着しつつある。
ステロイド剤など抗炎症薬で湿疹を抑えた後も薬を使い続け、「見えない炎症」を抑えるもので、学会が昨年(2016年)、強く推奨した。
抗炎症薬で症状が改善しない患者向けの新薬の開発も進み、期待が集まっている。
 
乳児期からアトピー性皮膚炎に悩まされていた東京都葛飾区のRちゃん(4歳、女児)は2014年12月、全身の湿疹がひどくなり、かかりつけ医の紹介で同区の大学病院を受診した。
 
アトピーの治療では、抗炎症薬で湿疹をおさえる。
湿疹が治ると薬を塗るのをやめ、再発した時に再び使うのが一般的だった。
 
子どもの薄い皮膚にステロイドを塗ることに抵抗があるという母親(33)に主治医は「今しっかり塗ってスキンケアを丁寧に続ければ、塗る量を減らしていける」と説明。
納得した母は1日3回、入浴後の娘の全身にステロイドと保湿剤を混ぜたクリームを塗った。
母は「最初は1回で2時間ぐらいかかったが必要だと認識できたので続けられた」と語る。
 
1カ月後には見た目の湿疹はほぼ治まり、皮膚はきれいになった。
だが症状が出ていない時にも薬を使う「プロアクティブ療法」を実践し、1日、2日おきと間隔を空けて薬を使い続けた。
見た目はきれいでも皮膚の下に炎症が残っていると、再び湿疹が出やすいために薬を使い続けるものだ。
 
主治医は「炭火をおこした後、くすぶる炭に風を送れば再び燃え上がるようなイメージ」と説明する。
「見えない炎症」を抑え、湿疹の再発を予防するもので、この主治医は「薬の回数を減らし、保湿剤だけでのケアに軟着陸させるための治療法」と説明する。
Rちゃんは一昨年末には夜だけ週2回、昨春には週1回と塗る回数が減った。
今は見た目でアトピーとわからないほどきれいな状態だ。
母は「このまま保湿剤のみのスキンケアになれば」と話している。
 
日本皮膚科学会は昨年、7年ぶりに診療指針を改訂。
この治療法について、有用で安全性が高いとして初めて強く推奨した。
湿疹が活動性になる前に予防的に塗る方が、長期的には抗炎症剤を塗る量も減り、安全性が高い。
  
「見えない炎症」の程度を測るのに使われるのが、「TARC」と呼ばれる血液検査だ。
炎症を悪化させる血中の物質を測定し、炎症がひどいほど高い値になる。
値を知ることで、薬を塗ろうという患者さんの動機付けや、薬を減らすタイミングの目安に利用できる。

新たに注射薬の開発も  
抗炎症薬の治療で皮膚の状態が改善しにくい患者に対し、効果が期待される新薬の開発も進む。
 
米国で今年(2017年)3月に承認された「デュピルマブ」は、国内では承認を申請中。抗炎症薬の効果がみられない大人向けの注射薬で、炎症に関与するたんぱく質のIL(インターロイキン)4とIL13の働きをピンポイントで妨げる作用がある。
 
国際共同治験では、この注射を週1回か隔週で受けた患者の約4割は、16週間後に湿疹が「消える」「ほぼ消える」効果が見られた。
海外では12~18歳の患者への治験を実施中。
画期的な薬で副作用の結膜炎などに注意すれば安全性は高い。
 
かゆみに関与するとされるIL31の働きを妨げる日本発の「ネモリズマブ」は国際治中。注射を月1回受けた中等症以上の患者のかゆみが3ヵ月後に6割ほど軽減し、湿疹も4割程度改善したという。

まとめ
見えなし炎症」抑えるプロアクティブ療法            
1. ステロイド剤などの抗炎症薬を毎日塗り、湿疹や炎症を抑える
↓          
2. 週数回の間隔で抗炎症薬を使い、塗る回数を減らす
↓ 
3. 抗炎症薬をやめ、保湿剤だけによるスキンケアを続ける
↓ 
再発を予防し、皮膚がきれいな状態が長続きする

参考・一部引用
朝日新聞・朝刊 2018.7.19


<関連サイト>
日本皮膚科学会ガイドラインアトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2016 年版
https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/guideline/atopicdermatitis_guideline.pdf
プロアクティブ療法
プロアクティブ(proactive)療法は,再燃をよく繰 り返す皮疹に対して,急性期の治療によって寛解導入した後に、保湿外用薬によるスキンケアに加え、ステ ロイド外用薬やタクロリムス外用薬を定期的に(週 2 回など)塗布し,寛解状態を維持する治療法。
それに対 し、炎症が再燃した時に再度抗炎症外用薬を使って炎症をコントロールする方法をリアクティブ(reactive) 療法という。
アトピー性皮膚炎では炎症が軽快して一見正常に見える皮膚も、組織学的には炎症細胞が残存しており、再び炎症を引き起こしやすい状態にある。
そして、そのような場合には TARC などの病勢を反映するマーカーは正常値まで下がっていないことが多い。
この潜在的な炎症が残っている期間は、ステロイド外用薬やタクロリムス外用薬などの抗炎症外用薬を継続するかプロアクティブ療法を行うことによって、炎症の再燃を予防することが可能になることが多。
ただし、抗炎症外用薬の連日塗布からプロアクティブ療法への移行は、皮膚炎が十分に改善した状態で行われることが重要で,必要塗布範囲,連日塗布から間欠塗布 への移行時期,終了時期等については個々の症例に応 じた対応が必要である。
なお、プロアクティブ療法を行っている間も保湿外用薬などによる毎日のスキンケアは継続することが勧められる。

Th2ケモカイン(TARC): thymus and activation-regulated chemokine
https://www.okayama-u.ac.jp/user/hos/kensa/protein/tarc.htm
特定の白血球を遊走させるケモカイン群(白血球走化性因子)の一つで、71個のアミノ酸より構成されるタンパク質。
アトピー性皮膚炎では、様々な刺激によって表皮角化細胞等から、TARC産生が誘導または増強されることが知られている。
このTARCがTh2細胞を病変局所に引き寄せてアレルギー反応を亢進させることで、アトピー性皮膚炎の病態形成に関与し、症状を増悪させると考えられている。
血清中のTARC値は、アトピー性皮膚炎の重症度を反映して推移することが確認されており、アトピー性皮膚炎の重症度評価の1つとして、臨床的に利用されている。



基準値: 
小児(6~12ヶ月) 1367 pg/mL未満
小児(1~2歳)   998 pg/mL 未満
小児(2歳以上)  743 pg/mL未満
成人     450 pg/mL未満 


TARCとアトピー鑑別試験の違いは何ですか?
http://www.crc-group.co.jp/crc/q_and_a/175.html